「あの・・ウチに何か?」
 覚悟を決めた訳ではないので足取りも重く戻ってきた史朗は、家の前で騒いでるカップルに目を丸くした。
「史朗さんッ!? ユキが・・・ユキが・・・」
 茜の必死の形相にただならぬものを感じた史朗は、訳がわからないまま慌ててポケットから鍵を取り出して開けた。
「ユキっ!」
 待ち切れなかったように元気が中に飛び込んだ。

「ユキっ!」
「之!」
 リビングでうつぶせになっている之を発見した3人は慌てて駆け寄った。
「ユキ! しっかりしろ」
 元気が抱き起こした之はぐったりと力なく、完全に意識はなかった。
「救急車だ! 茜」
 元気が叫ぶと茜は弾かれたようにリビングの電話に飛びついた。
「何でこんなことになってんだ・・・」
 史朗は目の前の光景が信じられずに、ただ呆然としていた。

「肺炎になりかけてる上に脱水症状起こしてたので、もう少し発見が遅れたら危なかったですよ」
 運びこまれた救急病院で手当てを受けて、之は一命を取り留めた。
「何でこんなになるまで・・・」
 点滴を受けて眠る之の顔色はまだ青ざめている。茜は安堵して緊張が解けたのか、ポロポロ泣き出した。
「あの・・・一体何があったのか教えてもらえないかな・・・」
 史朗の問いに、元気は泣いている茜の肩を抱いたまま首を振った。
「俺達にもわかんないです。ただ、土曜日の夜に何かあったらしくて・・・」
「土曜日の夜?」
「史朗さんが留守だってんで、土曜日は俺達之んちに泊まる予定で、昼間はコイツのショッピングに付き合わされてたんですけど、晩メシくって店出てからだったか、急に帰るって・・・」
 元気の説明を受けて、史朗は思い当たる節があったのか、目を瞠った。
「ショッピングってN駅前で?」
 頷く元気に史朗はため息をついた。
「見られてたのか・・・」
 史朗のつぶやきに元気は首をかしげた。
「あの・・・大阪にいたんじゃないんすか?」
 元気の言葉に史朗も驚いた。
「えっと・・・ 自己紹介もまだだったけど、君達は俺のこと知ってるんだね?」
 元気は頷いた。茜もようやく涙が止まったのか、同じように頷いた。
「私達は幼稚園の時からの幼馴染なんです。史朗さんのことは、いつもユキから聞いて知ってました」
「わかった。君達は元気くんと茜ちゃんだね」
 この二人がいつも之が言っていた親友だとわかって、史朗はホッとした。
「あの・・・どうして大阪に行くなんてウソを?」
「之は俺のことを君達に何て話してるのかな?」
 茜の問いに答えず史朗は反対に質問した。
「ユキは・・・史朗さんのことが好きだと・・・恋してるんだって・・その・・ホントに恋する乙女のように・・・」
 茜は正直に言っていいものかどうか迷ったが、隠さない方がいいと判断した。
「えっと・・君達はそれをどう思う?」
「俺は別に・・・人を好きになる気持ちなんて、頭で考えてどうこうなるなんて思ってないし・・・」
 元気の答えに史朗は少なからずショックを受けた。
「ワタシも・・・ユキは本当に素直な気持ちで史朗さんのことが好きなんだって知ってるから・・」
「俺も之も男なんだけど、そのことは問題じゃないと、そう言うんだ。君達は」
 史朗の言葉に茜は反対に質問した。
「男同士だと何が問題なんですか? 結婚という形が取れないことですか? 結婚しても別れる男女だって多いじゃないですか。それより男同士でも女同士でも好きな人と一緒にいたいと思うことは間違ってますか?」
 茜の質問に史朗は答えられなかった。

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