「うわ・・・まじ?」
「話聞いてると、史朗さんってその里奈って人のこと、何とも思ってないようだけど?」
今日も、元気と茜を呼び出して愚痴ってしまった之だったが、二人とも呆れもせずにやってきては、つきあってくれた。
「でも、史朗さん優しいから、強引に迫られたりしたらと思うと・・・」
「酔ってるところ跨られたりしたらって心配してるんだな。ユキは」
「ちっ・・・違わないけど・・・」
元気のあからさまな表現に、之は赤くなった。
「気になるなら、ついていけばどう?」
茜は何でもないことのように言った。
「そんなこと・・できるならしたいけど・・・」
之は口ごもった。
「そうだよな・・相手は大学生だし、そんな簡単にいく訳ないよな」
「あら、そうかしら。ユキが甘えれば、史朗さんじゃなくても、おいでって言ってくれる人がいるわよ、きっと」
「そんな簡単にいくかな・・・」
簡単にいった。
史朗が出かけるときに見送りに出た之を見た友達の一人が、之が『行きたい』と口にする前に『一緒に来ないか』と誘ってきたのだった。
「おいおい・・・コイツは受験生だぜ。気安く誘うんじゃねぇよ」
史朗があっさり断るので之ががっかりしていると、友人の金本はしつこく食い下がってきた。
「一日くらい息抜きしたって大丈夫だろ。こんな美少年連れて行かなかったら女共がうるさいって。な、君だって行きたいよな?」
見ると、車の中から女のコが3人顔を出して、こちらの様子を伺っていた。
「でも・・いいんですか? お邪魔じゃないですか?」
行きたいという気持ちを悟られないように、遠慮がちに訊いてみる。
「大丈夫だって、8人乗りだから、君が来てもまだ余裕さ」
史朗の顔を見ると、しょうがないなって感じで苦笑している。
「こうまで言ってくれてるんだ。早いとこ支度してこい」
史朗のOKが出たので、之は急いで部屋に戻った。
「いや〜ん。カワイイ〜。近江くんの従弟ってホント〜?」
「本物の美少年見たの初めて〜。ユキくんなんて名前も萌えだわ〜」
「近江くんとのカラミ、絶対に絵になると思わない〜?」
紹介された之を見た女の子は口々に叫んでいる。
「おい、繊細な受験生をお前らの邪道のエジキにするのはやめてくれよな」
史朗が女のコからかばうように、之の肩を抱き寄せた。
「きゃ〜!」
途端に黄色い悲鳴が上がって、ワンボックスカーの中は騒然となった。
「近江ぃ。お前、ワザと煽るような行為をするんじゃないよ」
ハンドルを握っているのは野口といって、史朗と同じ法学部だ。
之を誘った金本は経済学部で、女の子は里奈と美春と早苗といって、野口の高校の後輩だそうで、近くの女子大生だと紹介された。
里奈は3人の女の子の中で、一番可愛かった。肩の辺りで切りそろえられたサラサラの髪をかき上げながら、史朗に甘えるような視線を向けているのが腹立たしいと、之はムカムカしてきた。
天気もよかったので道はかなり渋滞していた。史朗の隣にはいつのまにか里奈がちゃっかり陣取っていて、ベタベタまとわりついていた。
「それでなくても暑いんだから、そんなにくっつくな」
史朗がはっきり言っても里奈はおかまいなしだった。
「野口先輩。もっと冷房の温度下げてよ。近江くんが暑いって」
美春と早苗は、いつものことだとうんざりしたように肩をすくめた。
「随分露骨なお姉さんだね」
イライラもかなり沸点に達していた之のイヤミも、里奈には聞こえなかったのか、白けるメンバーをよそに、一人はしゃいでいた。