「郵便受けに合鍵が入ってるのを見つけたときはショックで心臓が止まるかと思った。ダメ押しするかのように着信拒否もされてるし、てっきり結婚したい女ができて、俺とのことにケリをつけたいのかと思った・・・」
俺の言葉が意外だったのか、和夏は弾かれたように顔を上げた。
「俺も・・・・俺もそう思ってた。健悟は俺に飽きて結婚したい人ができたから、俺との関係を自然消滅させたいのかと思ってたんだ・・」
「和夏・・・」
和夏も俺と同じようなことを思っていたなんて、信じられない。
「着信拒否したのは、俺の未練だ。自分から別れを口にしたからかかってこないのは当然なのに、着信拒否しているせいにできるから・・・それに、どうしてもメモリから健悟の番号を消せなかったんだ・・・」
和夏の気持ちを聞いて、俺は腹の底から笑いが込み上げてくるのを感じた。
「健悟・・?」
急に笑い出した俺に、和夏は困惑したように首をかしげた。
「あはははは! ゴメン・・・10年もつきあってたのに、俺達何で今頃こんなバカなことでグルグルしてたんだろうと思ったら、あれだけ死にそうなほど悩んでたのがアホらしくて笑えちゃってさ」
「全くな・・・倦怠期の夫婦みたいに会話が足りなかったよな」
和夏も笑い出した。そして二人で腹の皮がよじれるほど大笑いして、やがて笑いが治まってくると、どちらからともなく口唇を寄せた。
和夏に初めてキスしたあの時のように、心臓がバクバク鳴っている。久しぶりに触れた口唇はあの時と同じようにやわらかくて温かかった。
でも、あの頃と違うのは、今の二人はセックスに繋がっていく大人のキスを知っているということだ。
和夏がこだわりぬいて手に入れたラブソファになだれ込んで、お互いの身体を強く抱き締め、深く口唇を結び合わせて、舌を絡め、溢れた蜜を交換し・・・
何ヶ月ものブランクのおかげで、つい長々とお互いの口唇を貪ってしまった。
銀の糸を引いて口唇が離れると、和夏は感じてしまったのか、潤んだ目で俺を見上げると、身体の力が抜けたように、くったりともたれかかってきた。
「健悟・・・・安心したら・・俺・・」
途切れ途切れに和夏はつぶやくと、俺の胸に頬を摺り寄せて、そのまま寝息を立て始めた。
「おい・・和夏・・・?」
寝ちまった? うそだろう!
俺のムスコは今の濃厚なキスで、完全に臨戦態勢に入ってしまったというのに、コレを一人でなだめろっていうのか?
しかし、何日も会社に泊り込んで疲れていたのだろう。俺の腕の中で安心しきったように眠る和夏を見ていると、今夜はこのまま寝かせてやろうと思った。
なんだかとても幸せな夢を見ていたような気がする。
久しぶりにぐっすり眠った俺が目覚めると、隣には健悟がいて俺を見つめていた。
「なっ・・・なんで・・あれ・・夢?」
「やっと起きたか・・和夏。おはよ・・」
寝起きでゆうべの記憶が曖昧で、混乱している俺に、健悟がにっこり笑って言った。
「あ・・そっか・・俺達・・・・」
ゆっくりと記憶が戻ってきた俺に、健悟はチュッとキスしてきた。
「第3月曜日だから、俺は今日明日は連休だけど、和夏は? 今、7時半だけど・・」
健悟に訊かれて俺は驚いた。
「ん? どうした?」
「お・・・俺も・・・連休・・・やっと一区切りついたから・・・」
俺の言葉に健悟は嬉しそうに笑った。
「2日間、今までの埋め合わせをしよう」
俺に異存はなかった。
「まず、シャワー浴びてから腹ごしらえだ」
俺が留守にしていた間に、健悟は冷蔵庫に食料品を補充しておいてくれたので、交代でシャワーを浴びて、二人で簡単な朝食を作った。
ゆうべ、ビールを1本飲んだだけで寝てしまった俺は、朝からしっかり食べまくって、健悟を呆れさせた。
「満足したか?」
後片付けが終わって、健悟に訊かれて、俺はうなずいた。