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「見た? 連休取ってたにもかかわらず、あの気だるげな風情・・・」
「連休取って、返って疲れるようなことしちゃってました、みたいな?」
「なんだか腰つきがヤバめですよね」
「フェロモン出しまくりって感じ?」
「本人の自覚ないまま、垂れ流し状態ですねぇ」
「これは、もしかしなくてもヨリが戻ったとか?」
「それとも、新しいカレシ・・・・・は、ないですよねぇ・・・」
「2日間みっちり可愛がられました、みたいな?」
「いやぁん。素敵!」
「結城さんってば絶倫?」
「ワカ様が女なら確実に妊娠してるね」
「きゃー。もぅ美音さんってば、親父入ってますよ、ソレ」

 コピーを取りに行こうとして給湯室の前を通りかかった時、中から聞こえてきた噂話に、俺は口から魂が抜け出していくのを感じた。
 それは紛れもなく俺のことで、しかも彼女達の言っていることは、ほぼ100%正しかったからだ。
 まだ俺が出社して30分も経っていないにもかわらず、この恐るべき観察力に、俺は消えて無くなりたくなるほど恥ずかしくなった。
「あら、ワカ様だわ」
 俺の気配に気づいたのか、麗香が顔を出した。
「えっ?」
「ウソっ!」
「あっ、ホントだ。真っ白に燃え尽きてますけど、どうしましょう? 美音さん」
 次々に給湯室から顔を覗かせた女性陣に、フリーズしていた俺は呆気なく拉致られて、今日の就業後に連休中のあれこれを白状する約束をさせられた。

「呆れて開いた口がふさがらないってこういうことを言うのね」
 いつもの居酒屋で、洗いざらい白状すると美音が大きなため息と共に、吐き出すようにそう言った。
「単なる会話不足でしたって、ホント、バカ? 最近のお笑いより笑えないわ」
「美音さん・・・言い過ぎですって・・・」
 美智子は苦笑している。
「でも、よかった・・・」
 静美がポツリともらすと、女性陣は一様にうんうんとうなずいた。
「元サヤに戻ってめでたしめでたしということで、今夜はワカ様のおごりね」
 もちろん俺は、心配かけた心優しい女性達にお礼の意味をこめて、そうさせていただいた。



「あら、元サヤに戻った?」
 朝、挨拶をする前にいきなり吏伽にそう声をかけられて、俺は驚いた。
「な・・なんで? いや、確かにおかげさまで元サヤに戻ったけど・・・」
 酸素不足の金魚のように口をパクパクさせて、しどろもどろになる俺に、吏伽は吹き出した。
「お肌のツヤが先週までとは格段に違っていましてよ。心も身体も満足しましたって顔に書いてあるわ」
 吏伽には珍しく、おどけたような口調で図星を指されて、俺は赤面した。
「よかったわね。つきましてはちょっと相談に乗ってもらいたいことがあるんだけど、今夜いい?」
 吏伽が俺に相談なんて、思いがけないこともあるものだと俺は更に驚いたけど、OKした。
 和夏に今夜は行けないと電話を入れると、和夏も女の子達に事情説明会を開くハメになったから逢えなくなったとメールしようと思っていたと言われて苦笑した。

「で、相談って何?」
 吏伽のお勧めのダイニングバーに連れて行かれて、一通り注文を終えて切り出すと、彼女はいつになく真剣な顔で言った。
「そろそろ独立して店を持とうと思ってるの。で、私と結婚して共同経営者になって欲しいんだけど」
「なっ!?」
 俺は一瞬にして頭が真っ白になった。