「やっぱ、ドコでもいいから、まず大学だろ」
「だよな・・・最終学歴が高卒じゃなぁ・・・」
「女ならいいけど、高卒じゃ結婚にも二の足踏まれるよな・・・」
高校2年になってすぐ、進路調査の用紙が配られると、俺の隣でクラスメートの何人かは口々にそんなことをしゃべっていた。
俺には美容師になって自分の店を持つという夢があるので、大学に行かずに専門学校に行くつもりにしていたが、そんな話を聞くと、自分の考えが間違っていると決め付けられているようで、少なからず傷ついた。
「でもさ、大学に行けば必ず人生順風満帆にいくのかなぁ・・」
一番前の席でボソっとそんなことを言ったのが和夏だった。
「なんだよ。ワカ様は大学行かねぇの?」
和夏の言葉が思いがけなかったのか、しゃべっていた一人が訊くと、和夏はくるっとこちらを振り返った。
「いや・・・まだどうするか決めてねぇけど、大学に行くことしか選択肢がないってのは、悲しいなと思ってさ」
「なんだよ・・ソレ・・・」
「大学に行かない人が人生の落伍者になっちゃうみたいな考えって、なんか狭量だし間違ってると思わねぇ?」
多分和夏は何気なく言ったのだと思うが、俺は自分の考えが間違っていないと認められたようで、泣きたくなるほど嬉しかった。
その時に恋に落ちたんだと思う。
1年の時から同じクラスだったが、秋永と結城じゃ出席番号が離れているから、座席が近くになったことがないのであまり親しくはなかったが、それをきっかけに朝の挨拶から始まり、体育の時に接触を図って、徐々に和夏に近づいていった。
そうするうちに、多少優柔不断ではあるが裏表のないさっぱりした性格だということがわかって、俺はますます和夏に惹かれていった。
終業式の日、夏休みの間逢えなくなるのがイヤで、強引だとは思ったけどコクったら、OKしてくれて、俺は天にも昇る心地だった。
キスしても嫌がらずに、それどころか俺の腕の中でかすかに震えてる様子がたまらなく可愛かった。
初めて抱いた時、ロクな知識もなかったせいで、信じられないほど和夏を傷つけてしまった。
和夏は泣き叫んでいたけど、やめてやることはできなかった。
無理に捻じ込んだ和夏の内部は信じられないくらいキツく俺を締め付けてきて、無我夢中で腰を使った。
途中で和夏の身体から力が抜けたのは意識を失ったからだと気づいたが、それでもやめられなかった。
何度和夏の内部に想いを迸らせただろう。ふと我に返った時、目に入った血塗れのシーツに、俺は和夏を殺してしまったのじゃないかと、心臓が止まるほど驚いた。
意識を取り戻した和夏に、俺は泣いて謝った。指1本動かせないほど消耗していた和夏は、苦笑を浮かべてそんな俺を許してくれた。
だから、俺は二度と和夏を傷つけないために勉強した。その手の雑誌を読んだり、2丁目に行って実地で教えを請うたのは内緒だけど。
そして“リベンジ”と称して再び和夏を抱いた時、『修行』が功を奏して、信じられないほど和夏は感じてイイ声で泣いてくれた。
女扱いしたい訳じゃないが、結果的にそうなってしまったのに、和夏は俺を責めたりしなかった。それどころか、よほど気持ちよかったのか、それからも抱かれることを嫌がりはしなかった。
畜生。開店時間だというのに、思い出しただけで勃ってしまいそうだ。
しかし、挙動不審な俺を覗き込んでいた雪姫の顔を見た瞬間に萎えたので、事なきを得た。
「ワカ様ったら、最近ズボラになってるけど、恋人にフラレたとか?」
来月末に発売になる新しいゲームの最終的なチェックをしていたら、背後から声をかけられて、俺は手を止めた。
「おい・・・今の俺にその言葉は禁句・・」
健悟から連絡が途絶えてひと月と1週間。いよいよダメだと、そろそろ諦めなきゃと思い始めていた矢先のその言葉に、俺はどっぷりと落ち込んだ。
「あら、マジなの? 最近髪が乱れ放題だから、まさかとは思ったんだけど」
年上だけど後輩の池川美音(いけかわみね)の容赦ない言葉は、いつもなら軽く受け流せるのに、今日は本当に堪えた。
「髪が伸び放題なのは、いつもカットしてくれる知り合いと、しばらく逢っていないせいだよ」
そのカットしてくれる知り合いが恋人で、フラレたからだとは言えないけど。
「ふーん、まぁいいわ。とりあえず、傷心のワカ様を慰める会でも企画しましょうか」
どうせ飲み会のネタが欲しかっただけなのだろう、俺の返事を待たずに、美音は鼻歌まじりに部屋を出て行った。