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「待て・・・誰が捨てるって? 来なかったのは飛雄、オマエだ。俺は合鍵を渡してたハズだ。それに、俺は動けなかったんだから、恋人だってなら、お前が逢いに来るのがスジだろう。違うか?」
 畳み掛けられて、また飛雄は顔色を無くしていった。
「オマエが恋人になれば一緒に会社をやってくれるって言ったから、俺は承諾した。でも、オマエが言う恋人って、都合のいいセフレってことだったのか?」
 ユラリと飛雄の身体が揺れたと思ったら、いきなり抱きすくめられていた。
「なんでそんなこと言うんだよ・・俺はヒデが、うるさい帰れなんて言ったから・・・・だからヘタクソだったから愛想尽かされたと思って・・・・」
「飛雄・・・?」
「好きなんだ・・・ヘタクソだってなら、もっといろいろ調べて巧くできるように努力するから・・・」
「・・・お互いに勘違いしてたってのか・・・」
 秀悟の口唇から安堵のため息が漏れた。ギューギュー抱き締めてくる飛雄の背中に腕を回すと、なだめるようにポンポンと叩いた。
「で、俺がうるさいから帰れって、そう言ったのか?」
 飛雄は憮然とした表情で頷いた。
「覚えてないよ・・・そんなこと・・・ドロドロに疲れてたから、無意識にうちに言ったんだろう・・・」
「そんな・・・俺はてっきり・・」
 拗ねて尖らせた飛雄の口唇に、秀悟は笑みの形の口唇を重ねた。
「好きだよ。飛雄」
「ひひひひひひ、ヒデッ!?」
 ボンッと音がしたかと思うくらい一気に、飛雄は真っ赤になった。
「ただし、条件がある」
 秀悟は更に口角を上げて、ニヤリと笑いながら言った。
「条件・・・?」
 飛雄は狐につままれたように、ポカンと口を開けた。
「そう。言わば『恋人の条件』かな」
 その言葉に飛雄はギョッとしたように、目を瞠った。
「オマエはまだガキだ。それは仕方ないことだけど、俺は恋人のお守りをするつもりはない。わかるよな?」
 飛雄はただひたすらコクコクと頷いた。
「俺はオマエのそのふてぶてしい見てくれと態度を気に入っている」
「はぁ・・・」
 秀悟が何を言いたいのか、褒めているのか貶しているのかわからなくて、飛雄は曖昧に頷いた。
「だから、俺が言いたいのは、その見てくれと態度を裏切らないように、中身を成長させろってことだ。俺は口先だけの男を恋人にするつもりはない」
「ヒデ・・」
「できるよな? オマエは俺が見込んだ男なんだから」
 飛雄の胸に頬を摺り寄せて、見上げる秀悟の笑みはさながら悪魔の誘惑だったが、飛雄は魅入られていた。
「やるさ。それがヒデと恋人でいられる条件なら」
ギュッと、力いっぱい秀悟を抱き締めて飛雄は誓った。
「まずはエッチのテクを磨くことから、だな。ヤる度に瀕死になるなんて、もうゴメンだ」
 ニヤッと意味深な笑みを浮かべられて、飛雄の理性がブチッと音を立ててキレた。
「じゃあ、今から早速レッスンだ」
 そう言うなり、秀悟の身体を抱き上げ、飛雄はベッドルームに突進した。
「まっ・・待てっ! 俺はやっと動けるようになったばかりなんだぞっ!」
 ベッドに放り出されて、秀悟は後ずさった。
「挿れなきゃいいんだろ」
 飛雄はシャツを脱ぎ捨て、ベッドに入ってきた。
「そ・・・・そう言う問題じゃなく・・・」
 困惑する秀悟のシャツのボタンを外すと、飛雄は滑らかな肌に手を這わせた。
「これからどうすればいい? 教えてくれよ・・」
 羞恥で朱に染まった秀悟をそっとベッドに横たえると、飛雄は震える吐息を洩らす口唇をふさいだ。