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 土曜日。
 「遊々倶楽部」のビーチバレーは現地集合になっていたが、秀悟と飛雄は恋人という関係を内緒にしているので、一緒に行かないことにしていた。
 結局、あれから電話の1本もできずに落ち込んでいて、避けていた訳でもないのに、4年の秀悟とは逢うことはなかったのだった。
「今日は来るよな・・・多分・・・・」
 逢えたら土下座してでも赦してもらおうと、飛雄は決心していた。


「あぁ? 秀悟? 今日は来ねぇぞ」
 ビーチバレーが始まっても秀悟の姿を見かけないので、意を決して訊ねると思いがけない答えが返ってきて、飛雄は更に落ち込んだ。
「風邪でも引いたらしくて、身体が動かねぇんだってさ。ここんトコずっとガッコも休んでたしよ」
 一矢の言葉に飛雄は顔色を失った。
「マジっすか・・・」
「ウソは言わねぇよ。お前も秀悟の立ち上げる会社に誘われてんだろ? ハッカーHUGH」
 ニヤリと笑う一矢に、飛雄は顎を突き出すだけの返事をした。
「ホント、お前って身体だけでなく態度もデカイのな」
 一矢は飛雄の態度を咎めるでもなく、愉快そうに笑った。
 飛雄は一刻も早く秀悟の元に行きたいと思ったが、二人の関係を知られる訳にはいかなかったので、夕方までビーチバレーに付き合った。
 いつものように解散後、飲みに行くグループやカラオケに行くグループに分かれたが、飛雄は一目散に秀悟のマンションに駆けつけた。


 貰っていた合鍵で秀悟の部屋の前まで来たが、ドアを開けるのを少しためらった。しかし、身体が動かないらしい秀悟のことを考えると、迷っている場合じゃないと思い直した。

 部屋に入ると、リビングのローテーブルの上にノートを置いて、一心不乱にキーボードを叩いてる秀悟がいた。
「ヒデ・・・・」
 そっと呼びかけると、キーボードを叩いてる手が止まり、弾かれたように秀悟は顔を上げた。
「遅いんだよ、飛雄。今頃ナニしに来た?」
 機嫌が悪いのか、秀悟が低い声でうなるように言った。
「許してくれっ!」
 秀悟の前でガバッと土下座すると、飛雄はひたすら許しを乞うた。
「・・・飽きたなら飽きたで、一言そう言ってくれ」
 秀悟の返事に飛雄は顔を上げるとポカンと口を開けて、間の抜けた表情になった。
「飽きたって・・?」
 状況が読めていないような飛雄に秀悟はムカッときた。
「恋人になれなんて言ったけど、抱いてみたら思ってたほど良くなかったんだろ? だから、ヤリ逃げみたいに放置して帰ったんじゃないのか? 女のように夜明けのコーヒーなんてことは望んでなかったけど、あんな仕打ちはあんまりじゃないか?」
 飛雄の顔色は段々なくなっていく。
「まぁ、いいさ。別れても俺の会社には入ってもらうぞ。俺は契約を果たしたんだからな」
「ちょっ・・・ちょっと待てよ! 何言ってんのか全然わかんねーよ!」
 片膝を立てて身体を起こして、飛雄は怒鳴った。
「別れるって、なんだよ! 俺が抱くのがヘタクソだったから捨てようったって、そうは問屋が卸さねーからな! 仕方ねーだろ、初めてだったんだから!」
 激昂して、飛雄は頭に血が上ったのか、今度は真っ赤になった。