7

 夜中に激しい腹痛で目が覚めた秀悟は、飛雄がギュウギュウと抱きついていたので、蹴り飛ばしてトイレに駆け込んだ。それでも飛雄が目覚めることはなかった。
「な・・・んなんだ・・・」
 内臓をガンガン突き上げられ掻き回された所為か吐き下しが酷く、脱水症状に陥って意識が朦朧となり、秀悟はこのまま死んでしまうのかと情けなくなった。
「ひゅ・・・」
 飛雄を呼ぼうとしたけど、腹に力が入らないので声は小さく掠れていた。
 そのまま秀悟はずるずるとトイレのドアにもたれて崩れ落ち、意識は闇に沈んだ。


「・・・ヒデ・・・・?」
 モンモンと溜まっていたものをスッキリ吐き出したおかげで、爽やかな目覚めが訪れた飛雄は、秀悟の姿が見えないので焦った。
「寝過ごしたかっ!?」
 一人で学校に行ってしまったのだろうか。慌てて時計を見ると、まだ7時を過ぎたところだった。
「腹減った・・・」
 昨日はミルクティを飲んだだけで、コトに及んでしまって、そのまま爆睡してしまい、夕食も取らずにいたので、飛雄の腹の虫が盛大に鳴いていた。
「ヒデ・・ドコだよ?」
 キッチンにも秀悟の姿は見当たらない。あちこち探して最後にトイレのドアを開けると、ドアにもたれて意識を失っていた秀悟が倒れてきたので、飛雄は心臓が止まるかと思うほど驚いた。
「ヒデッ?! ウソだろっ!」
 慌てて抱き起こすと、秀悟の身体は燃えるように熱かった。
「い・・・生きてる!? よかった・・」
 ぐったりと意識をなくしている秀悟を抱き上げ急いでベッドに運んだが、シーツはドロドロぐちゃぐちゃの酷い有様だったので、仕方なくリビングに引き返しソファに寝かせた。
「タオルとか毛布とか・・・」
 飛雄はあちこち家探しし、目的の物を見つけ出すと、秀悟の身体にタオルケットを掛けて、額には氷水で濡らしたタオルを乗せた。
「発熱には水分・・・」
 冷蔵庫からスポーツドリンクのボトルを取り出して飲ませようとしたが、意識のない秀悟に嚥下させることができなくて、飛雄は途方に暮れた。
「どうしよう・・ヒデが死んじまう・・」
 パニックに陥って泣き喚きそうになったが、思いとどまれたのは自分しか秀悟を助けられないと気づいたからだった。
「口移しだ・・・」
 ふと閃いて、飛雄はボトルのドリンクを口に含むと、秀悟に少しずつ飲ませることに成功した。

「・・・ん・・」
 口唇から流れ込んでくる温かい水分が秀悟の意識を引き戻した。
「ヒデっ! 気づいたか?」
 飛雄が泣き出す寸前の顔で覗き込んでいる。秀悟はゆうべの出来事を思い出し、苦笑した。
「・・ゅう・・・」
 心配いらないと言おうとしたが、身体に力が入らずに声もガラガラに嗄れていた。
「ゴメン。俺、嬉しくて乱暴にしちまった・・・」
「・・ず・・・もっと・・・」
「えっ?」
 指差すのも億劫で、秀悟は飛雄が握り締めているボトルに目をやった。
「あっ、水か! 一人で飲めるか?」
 飛雄が差し出すボトルに口をつけて、飲ませてもらった。乾ききった身体に染みとおっていく水分に、秀悟は生き返る思いがした。
「あ・・りがと・・・」
 喉の渇きが癒えると、再び秀悟は目を閉じた。今日は学校に行けそうもない。とにかく眠って身体を癒さないといけないと思った。
 しかし、飛雄は秀悟が再び意識を失ったのかと驚いて、慌てて身体を揺すったり頬を叩いたりした。
「ヒデッ! しっかりしてくれっ! 目を開けてくれよっ!」
 パニックを起こした飛雄に、ゆっくりと目を開けた秀悟は、嗄れた声で呟いた。
「うるさい。もう帰ってくれ」
 キッパリ拒絶されて、飛雄は顔色を失った。ふらりと立ち上がると、よろよろ出て行った。