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「バレちゃったらしょうがないか・・・コレは新聞部から失敬したものなんだ。覚えてるだろ? 校内新聞のクラブ特集」
 湊にそう言われて初めて、夏の大会の成績発表が特集されていたことを思い出した綾は、コクンと頷いた。
「でも、アレにはこんな写真は載ってなかったけど・・・」
 綾の鋭い突っ込みに、湊は赤くなった。
「ずっとアヤを見ていたと言ったろ? 新聞部のヤツらがアヤ達の写真を撮っていたのも生徒会室から見えてたんだ。だから何かと理由をつけて新聞部に顔を出して、くすねたんだ」
 くすねるなんて危ないマネまでして自分の写真を欲しがってくれたなんて、綾は少しくすぐったいような嬉しい気持ちになった。
「アヤ・・・・」
 湊に呼ばれて顔をあげた綾は、すぐそばに湊がドアップで近づいてるのに気付いて、反射的に両手で突っ張った。
「な・・・何? あ・・・ゴメン。勉強しに来たんだったよね。俺・・・」
 テーブルの上で、コーヒーが冷めかけている。あわよくば今日はキスに持ち込みたいと思っていたのに、拒絶されてしまった湊は大きなため息をついた。
「じゃあ、コーヒー飲んだら始めようか」
 無邪気に頷く綾に『急ぎ過ぎたかな・・・・』と湊は反省していた。
『キスしようとしたのがバレた訳じゃないみたいだし、怖がらせないようにしなきゃな・・・やっと手に入れたんだ。焦って逃げられでもしたらいけないしな・・・』
 しかし、半年も告白もできずにモンモンと我慢に我慢を重ねてきた湊の忍耐力は、そろそろ限界値に達していたのだった。


 次の日の昼休み。いつものように綾は一朗と和七と弁当を食べていた。
「なぁ、アヤ。お前、先輩に迷惑かけてないだろうな?」
 気分は、すっかり保護者の一朗に訊かれて、綾はジロッと視線を向けた。
「迷惑ってなんだよ?」
「迷惑っちゅうか、お前学校でも先輩にタメ口じゃん。いくら友達ったって馴れ馴れし過ぎると他の人がヘンに思うだろうからな。けじめってのが大切なんだよな。何事も」
「けじめ?」
 エラそうに説教する一朗に、綾は不思議そうな顔をした。
「仮にも体育会系なんだしさ。学校を離れて二人っきりならイイけど、これから、また学食で逢うんだろ? TPOをわきまえて言葉遣いも選ばなきゃな。そう思わないか?」
 一朗の言うことももっともだと、綾はコクコク頷いた。
「そっか・・・一朗の言うとおりだよな・・・・・先輩気を悪くしてないかな? うわー、どうしよう?」
 頭を抱えて考え込んでしまった綾に、和七は優しく言った。
「大丈夫だよ。アヤ。先輩はそんな些細なことで怒ったりしないよ。いつも優しくしてくれるでしょ?」
「う・・・うん・・・でも・・・」
「大丈夫だってば。気になるなら、これからちゃんとすればいいことだしね」
 和七にそう言われたら、本当に大丈夫な気がして、綾はコクンと頷いた。
「さあ、食べ終わったなら早く行かなきゃ。先輩が待ってるよ」
「うん」
 立ちあがった綾に一朗が追い討ちを掛けた。
「TPOだぞ、アヤ」
「わかってるよっ!」
 一朗に向かって叫ぶと、綾は食堂へと駆け出した。