15

「俺・・・先輩にからかわれてたのかな・・?」
 甘いココアを飲んで少し落ちついてきたのか、綾はポツリポツリと話し始めた。
「どうしてそんな風に思う?」
「だって・・・先輩、俺に・・・キ・・キ・・キス・・・したんだ・・・でも、俺・・・怖かった。シャツ破られて・・・・先輩がいつもの優しい先輩じゃなくなったような気がして・・・・」
「そう・・・キスされたのか・・・」
 和七は綾が、湊に想像していたことをされていた訳じゃなかったので、ホッとした。
「うん・・・で、怖くて逃げ出したんだけど、カバンを生徒会室に忘れてて・・・・取りに戻ったんだ・・そしたら・・・そしたら・・・」
 折角泣き止んでいたのに、話してるうちに思い出したのか、また綾の頬を涙が零れ落ちた。
「そしたら? どうしたんだ?」
「先輩が・・・好きだって・・・言ってるのが聞こえて・・・・竹村先輩と・・・・抱き合ってたんだ・・・俺・・・見た・・んだ・・・」
「何だよ。ソレ! 最低じゃん!」
 綾が話した真実に、和七は本気で怒った。
「アヤ。僕と一朗がついてるからな。もう誰にもアヤを傷つけさせたりしないから・・・僕達が守ってあげる。だから・・もう泣くな・・・」
 和七も泣き出しそうになりながら、泣きじゃくる綾を抱き締めた。
「和七・・・俺、からかわれてたのかな・・・? 先輩は・・・俺のこと好きだって言ったのに・・・・あれは嘘・・・だったのかな・・?」
「わからない・・・・だけど、アヤをこんなに傷つけた先輩を僕は許さないから・・」
 綾の為に本気で怒っている和七を見上げると、慈しむように見つめている視線が絡まった。
「アヤ・・・」
「か・・・ずな・・・」
 和七の目が臥せられて、口唇がそっと触れた。綾を慰めるために施されたくちづけだった。
「ダメだよ・・・和七・・一朗に悪い・・・」
 胸を押し返す綾に、和七は苦笑した。
「いいんだよ。これは恋人にするキスじゃないから・・・綾を慰める為のキスだから・・・・」
 和七の言葉に安心した綾は、そっと目を閉じると和七の胸に身体を預けた。
「あったかいや・・・・和七・・・ありがと・・・・」
「少し眠るといい・・・夕食の時間になったら起こしてあげるから・・・」
「う・・・ん・・・」
 和七に優しく髪をなでられているうちに、綾は泣き疲れたのかすぐに寝息をたて始めた。


「和七・・・アヤの様子はどうだ?」
 眠った綾をベッドに寝かしつけてしばらくすると、一朗がやってきた。右の拳には血が滲んでいた。
「今眠ったトコ・・・一朗・・その手・・・先輩を殴ったのか?」
「あぁ・・・アイツ・・・アヤをレイプしやがったんだ・・・本当は殴り殺してやりたかった・・・・」
 乾いて色が変わってしまった血を舐めながら、一朗は吐き捨てるように言った。
「あの・・・・アヤはキスされただけだって言ってたけど・・・乱暴されそうになったから逃げたんだって・・・」
 和七の言葉に一朗は目を丸くした。
「キ・・キスだけ?」
「うん・・・キスされて逃げ出したんだけど、カバン忘れて取りに戻ったら、森先輩が竹村先輩を抱き締めて、好きだって言ってたそうだよ」
「なんだよっ!? ソレ! じゃあ、二人がつきあってるって噂は本当だったんじゃないか!」
 一朗は拳をテーブルに叩きつけて怒鳴った。
「静かにしろよ・・・・アヤが起きてしまうじゃないか」
 和七に睨まれて、一朗はシュンとなった。
「す・・すまねぇ・・・・でも、森先輩があんなヤツだとは思わなかった・・・・見損なってたぜ・・・」
「そうだね・・・・彼ならアヤを大事にしてくれると思ってたのに・・・何でこんなことに・・・」
 和七は口唇を噛み締めた。