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「俺達で大事にしていこうぜ。今までよりももっと・・」
「うん・・・僕はもうしてるけどね・・・今まで以上に大事に・・・さっきキスしたし・・・」
 和七が得意げに顎を反らせながら言った言葉に、一朗は悲鳴を上げた。
「なっ、なっ、なんだとーっ! キ、キ、キスって・・・口唇にかっ!?」
「当然」
「俺だってずっとずっとしたかったのに・・・・・ずりぃよ・・和七・・」
 頬を膨らませてスネてしまった一朗に、和七は吹き出した。
「一朗だってすればいいじゃん。今なら無防備なアヤにキスし放題だよ」
「い・・・いいかな・・・?」
 真赤になって、一朗は綾の眠るベッドに近づいた。
「起こさないようにね・・・」
「う・・・うん・・・」
 ゴクっと唾を飲み込んで、一朗は綾の頬に手を添えると軽く開かれた綾の口唇にそっとキスを落とした。
「っ!」
 弾かれたように、両手で口元を押さえて一朗は綾から離れた。
「どうした? 一朗」
「俺・・・・俺・・・やっぱりアヤが好きだ・・・・恋人は和七だけだと思ってたのに・・・アヤも好きだよ・・・どうしよう・・・和七・・・」
 申し訳なさそうに一朗が言うのを和七は黙って聞いていた。
「僕もアヤが好きだよ・・・でもソレは恋人としてじゃない。しいて言えば守ってやりたい対象としての好き、なんだと思う。なぁ、一朗はアヤを抱きたいと思う?」
 いきなりそう問いかけられて、一朗は慌てた。
「だ・・・抱きたい・・・・?」
「そうだよ・・・好きなら抱きたいって思うのが普通じゃん・・・でも、僕はアヤをセクシャルな意味で抱きたいとも抱かれたいとも思わない。昔はそんな風に思っていた時期もあったけど、今はアヤが悲しんでいたら抱き締めて慰めてあげたいと思う・・・ただそれだけだ」
「和七・・・」
「僕の恋人は一朗だけだよ。アヤにキスしたのは慰めてやりたかったからなんだ。アヤのきれいな気持ちを、もう誰にも傷つけられたくないと思っている・・・」
 静かにそう言った恋人は、一朗にはなんとなく大人びて見えた。
「一朗も僕と同じ気持ちでアヤのことを想ってると、そう思ってたんだけど違ったのか?」
「ち・・違わないっ! 俺も和七と同じ気持ちだ! そうだよ・・・アヤのことを抱きたいんじゃなくて、きれいなまま守っていきたいんだよな・・・和七のことだって守ってやりたいけど、抱きたいもんな・・・」
 一朗は自分の言葉が正しいとでも言うように、ウンウンと頷いた。
「なぁ・・・ちょっとだけイイだろ? アヤも寝てるしさ・・・最後までしないから・・・」
 おもむろに和七の肩を抱き寄せると、一朗は熱くかき口説いた。そして和七の返事を待たずに口唇を塞いだ。
「んっ・・・ダメだって・・・いちろ・・・・アヤが・・・起き・・る・・・」
 和七は両腕を突っ張って抵抗したが、シャツの上から身体をまさぐられるとあっと言う間に息が上がってしまった。こうなるともう一朗の言いなりだった。
 一朗はニッと口唇の端だけ持ち上げるように笑うと、和七の衣服を剥いでいった。
「和七・・・好きだ・・・」
 耳元に熱い吐息で囁きながら、ゆっくりと恋人の身体を拓いていった。


「湊ってば、しっかりしなよ。そんなに萎れてたらイイ考えも浮かばないよ」
 帰るなり綾の家に電話をしたけど、まだ帰宅していなかったので、湊は気が抜けてしまったようだ。魂を抜かれたように茫然としている湊に穂波は呆れ顔で言ったのだった。
「イイ考え・・・?」
 ボーっと、穂波の顔も見ているのかいないのか、湊はオウム返しに穂波の言葉を繰り返した。
「アヤちゃんのこと、このままでイイのか?」
「ア・・・ヤ・・・・?」
「誤解されたままだろ?」
 穂波の言葉に打ちのめされたように、湊は項垂れた。
「好きなのに・・・アヤ・・・・アヤ・・・」
 壊れたおもちゃのように『アヤ』と繰り返す湊に、穂波ももうどうしたらいいのか、困り果てていた。
「湊、待ってて。陸ちゃんに相談しよう」
 穂波は湊の部屋を飛び出した。