「どうして、うまくいかなかったんだろ? アヤちゃんだって湊のこと好きなんだと思ってた・・・・とても懐いてるように見えたのに・・・どうして・・・・どうして・・?」
『どうして・・・? 先輩・・・・どうして・・?』
「アヤ・・・・」
穂波が繰り返す『どうして』に、綾が泣きながら言った『どうして』がオーバーラップした。
「アヤ・・・・違うんだ・・あんな顔をさせたかった訳じゃない・・・僕は・・・・」
ブツブツ呟きながら湊は携帯を取り出した。
「アヤの家に電話しなきゃ・・・そろそろ帰ってるかもしれない・・・」
しかし、返ってきたのは綾の不在を告げるものだった。
「アヤちゃん、まだ帰ってないの?」
穂波が恐る恐る声を掛ける。
「アイツらの家に泊まるそうだ・・・畜生・・・・・僕はいつもいつもヤツらの次なんだ・・・・クリスマスも正月も、ヤツらを優先させて・・・こんなに好きなのに・・・・何故なんだ・・・?」
湊はギリギリと奥歯を噛み締めて悔しがった。拳を堅く握り締めるあまり、爪が掌に食い込んだ。目も血走っていて、こんな湊を見れば松南の学生達はきっと腰を抜かすに違いない。
それほど狂気を孕んだ湊は凄絶だった。まるで修羅を思わせるほどに。
「湊・・・・じゃあ、奪えばいいじゃん。手を拱いて見てるだけだから、そうなっちまったんだろ? 俺はお前から穂波を奪ったぜ」
「――――!」
流石に湊の兄を17年もやってきただけはある。陸はほんの一言で湊の全身を覆っていた怒りのオーラを払拭してしまった。
「奪った・・・? 僕から穂波を・・・・?」
「何言ってんだよ!? 僕が湊のことをそんな風に好きだったことは、一度だってないぞ!」
話が自分に及んだ穂波は、キャンキャン喚いている。陸は絶句してしまった湊と叫んでる穂波を眺めてニヤニヤするだけだった。
「わかるように説明しろよっ! っ・・・・ん・・・・」
陸が穂波の口唇を奪ったのは、うるさいから塞ぎたかったのと気の進まない相談料として。
「穂波はいつだって湊の後ろにくっついてたろ? 俺はそれをいつも苦々しく思ってた訳だ。でも、穂波もガキの頃から俺のこと好きだったって知ったのは、手に入れてからだったけどな」
口唇を名残惜しげに離すと、陸は白状した。
「だから、それが何だってんだよ?」
湊の前でキスされて、羞恥のあまり真赤になって穂波はヒステリーを起こした。
「ソイツらは親友なんだろ? ならお前は友達やめて恋人にしてもらえばいいじゃん」
「あ・・・・」
陸の言葉に驚いたように目を瞠った湊は、自分が綾に言った言葉を思い出していた。
「そっか・・最初は友達からって言ったんだよな・・・・なのに、レイプ紛いのことしたから逃げたんだ・・・・友達はそんなことしたりしないもんな・・・・」
ガクッと肩を落とした湊は長い間蹲っていたが、やがて顔を上げると元通りの、沈着冷静な生徒会長の顔に戻っていた。