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「ん・・・あぁ・・・・いち・・ろ・・・う・・・」
 綾の意識が闇の底から浮上してきて、段々ともやが晴れてくると部屋の灯りが落とされて、小さな電球だけにされているのに気付いた。
「ヤ・・・最後・・・しないって・・・・ウソ・・・つき・・・・あぁっ!」
「イヤなのか? もうイきそうじゃん・・・・ほら・・・こんなに溢れてきてるぜ。本当にヤメちゃってもいいのか? 和七」
 粘液質な音が響く。
「イヤ・・・やめるな・・・いちろ・・・もっと・・・もっと・・・気持ちイイこと・・・して・・・」
 和七の喘ぎ声に綾は完全に覚醒した。ガバッと起きあがって目を凝らすと、部屋の真ん中、カーペットラグの上で蠢いてる人影が見えた。
『一朗と和七・・・?』
 思わず声をかけそうになったが、すんでのところで口を両手で押さえて飲み込んだ。
「あ・・・ああああぁぁぁぁぁぁんっ!」
 和七が一朗に貫かれて達くのをしっかりと目撃した綾は、和七と目が合ってしまって、逸らすこともできなくなって凝視していた。
 和七の方も、ふわふわと意識が遠のきかけたところ、綾のびっくりまなこにぶつかって現実に引き摺りおろされて、一朗の身体の下で硬直してしまった。
「和七・・・?」
 和七に覆い被さっていた一朗は、和七の視線が自分を通り越しているのを怪訝に思って振り返り、綾の驚愕に満ちた表情にぶち当たり、これまた凍りついてしまった。
「アヤ・・・見た・・?」
 寝てるからと無防備に堂々とイタシておいて、今更何をか謂わんや、である。


「ワリィワリィ。だって、アヤぐっすり寝てたし、テストが済んで禁欲しなくてよくなったんだと思ったら、つい・・・な、わかるだろ?」
 あれから、綾が後ろを向いている間にそそくさと始末をして、服を着た一朗は弁解に精を出していた。
「もうイイよ・・・わかったから。全く、恥ずかしいのはコッチの方だってば・・・」
 憮然とする綾に、一朗はシュンとしょげ返った。
「気が済んだなら、一朗はもう帰れ。アヤはウチに泊まるからいいけど」
 顔を赤くしたまま拗ねている和七に冷たくあしらわれて、一朗は大いに慌てた。
「えーっっっっ!? 俺もお泊りしたいっ!」
 懇願も哀願も空しく、和七に蹴り出された一朗はトボトボと帰っていった。


「なぁ、和七・・・アレってそんなにイイのか?」
「えっ?」
 頬を染めて伏せ目がちに尋ねられた和七は、質問の意味を理解した途端、綾以上に頬を染めた。
「そりゃ・・・まぁ・・・・好きな人と抱き合うんだから・・・・」
 和七がモゴモゴと口篭もりながらも答えると、綾はそっか、と呟いた。
「先輩がしようとしたのも、アレなんだよな・・・でも、恋人がいるのになんで俺まで・・・・」
「アヤ・・・・・」
 和七は何と言って慰めたらいいのか、途方に暮れた。
「チェッ・・・俺ってなんかバカみたいだ・・・・あんなスゴイ人が俺のことなんて本気で好きになってくれるはずなんてないのにさ・・・・からかわれたのを真に受けたりして・・・・」
 ズズッと鼻をすすり上げた綾は、目を涙でウルウルさせながらも、和七に向かって笑ってみせた。
「なぁ、アヤ。間違ってたらゴメン。もしかして、先輩のこと好きか?」
 和七は確信していた。綾があんなに泣いたのは、湊にレイプされそうになったからじゃなく、湊に恋人がいたとわかったからだったのだと。