「いきなり本題に入るけど、少しでも早い方がいいと思ったんだ。だって湊ったらヒドイ恋煩いで使いものにならないんだ」
「竹村先輩・・?」
話が見えなくて首を傾げる和七に、穂波は目を細めた。
「昨日何があったのかは知ってるよね?」
「あ・・・・はい・・・・一応・・・・」
「湊はさ・・・煮詰まっちゃってたんだよね。半年もの間、ずっとアヤちゃんのことだけ見て来たんだ・・・・・でも、君も男ならわかるだろ? 好きな人を抱きたいと思うのを・・・・」
「わかります! わかりますけど・・・・・一つだけ訊いてもいいですか?」
勢い込んでつい大きな声を出してしまって真赤になった和七に、微笑みながら穂波は首を傾げた。
「いいよ。何かな?」
「あの・・・・・竹村先輩の恋人って、森先輩じゃないんですか?」
和七の質問に、穂波はクスッと笑った。
「確かに僕の恋人は森先輩だけど、カズナちゃんの言ってる森先輩ってのが湊のことなら違うよ。僕の恋人は森陸。湊のお兄ちゃん」
「えぇーっ!?」
和七の目が真ん丸に見開かれた。穂波が言ったことは、いわゆるカミングアウトってヤツで、本当なら内緒にしておいた方がいいことではないだろうか。こんなことを自分なんかに話してしまってもよかったのだろうかと、和七は胸がドキドキしてきた。
「あの・・でも・・・アヤが言ってた・・・・生徒会室で二人が抱き合ってたってのは・・・?」
混乱し出した頭で、和七は必死に質問をぶつけていた。
「あれは湊がアヤちゃんに無体なことをしようとして逃げ出されて、泣きそうな顔で落ち込んでたのを慰めてただけ。カズナちゃんも知ってるだろ? 僕と湊が幼馴染だってこと。本当にアレはアヤちゃんの誤解なんだ」
「はぁ・・・」
事実は小説よりも奇なりってことかと、安心した和七はため息をついた。
「でも、森先輩が竹村先輩のことを好きだって言ってたって・・・」
小さな疑問も全て解決しておかなければと、和七は訊いた。
「湊が好きだって言ってたのはアヤちゃんのことだよ。昨日はもう壊れたラジオみたいにそればっかり呟いてて、僕もまじ焦ったよ」
「なんだ・・・じゃあ、あの二人って相思相愛なんじゃないですか・・・」
和七が呆れたように言うと、穂波が驚いたように目を瞠った。
「アヤちゃん、湊のことが好きなの?」
「はい・・・多分・・・昨日、慰めててわかったんですけど・・・アヤはまだ自分の気持ちに気づいてないみたいだけど・・・」
和七の説明に穂波はニヤッと笑った。
「そっか・・・ねぇ、カズナちゃん。どうやって慰めたら一晩であんなに復活できたのかな? 後学の為に教えてくれる?」
和七は真赤になりながらも穂波に説明した。キスしたことや、ひとつベッドで抱き合って眠ったことを。
「キスって・・・イチローくんも?」
目を丸くした穂波の問いに、和七はコクンと頷いた。
「実は、僕も一朗も中学の時はアヤが好きだったんです。最初は取り合いしてたんですけど、全然アヤは気づいてくれなくて・・・・そのうち紳士協定を結んで、抜け駆けしないようにして大事に守ってきたんです。今はセクシャルな意味でアヤをどうこうしたいとは思わないけど、慰めるのを口実に、あの時の気持ちに終止符を打とうと思って・・・・」
穂波が秘密を打ち明けてくれたので、和七も正直に自分の気持ちを話した。
「そんなに大事にしてきたアヤちゃんが、湊のものになってもイイの?」
穂波に尋ねられて、和七は微笑んだ。
「アヤがそれで幸せになってくれるなら・・・・一朗も僕と同じ気持ちです」
「ねぇ、もう一つ訊いてもイイ? カズナちゃんとイチローくんって・・・・」
「はい、恋人です。アヤには僕達と同じように、幸せになってもらいたいと思ってます」
穂波の告白に、穂波も微笑んだ。
「そうだよね。僕も湊には幸せになってもらいたいんだ。僕と陸ちゃんのようにね」
「僕達、同志ですよね? 先輩」
「そうだよ。だから先輩なんて堅苦しい呼び方はやめてほしいな。穂波って名前で呼んでくれなきゃ」
「えっ・・・呼び捨てなんて、そんな馴れ馴れしくできないです・・・・」
再び顔を赤くした和七に、穂波は愉快そうに声をあげて笑った。