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「なんだ・・・・じゃあ、アヤの勘違いだったのか・・・」
 午後9時、電話で呼び出された一朗は、和七の部屋に来ていた。テスト休み中とあって、行き先が和七の家だと両親も文句を言わなかった。
「え・・・・ということは・・・ちょっと待てよ・・・・じゃあ、俺が先輩をぶん殴っちまったのは・・・・・」
 一瞬で顔の色を失った一朗は、ウギャーっと叫んで頭を抱え込んだ。
「どうしよう!? 和七。俺、殺されるー! 愛好会も活動停止どころか、お取り潰しだぁ!」
 真剣にビビッてる一朗に、和七はクスクス笑った。
「大丈夫だよ。穂波さんは怒ってなかったし」
「穂波さんって誰?」
「竹村先輩。同志ってことで、名前で呼び合うことになったんだ」
「ふーん。そっか・・・・で、これからどうしたらいいんだ? 俺達は」
「森先輩に任せようということになった。アヤには内緒だよ」
「う・・ん・・・」
 まだ湊に綾を委ねることを納得しきれていないのか、一朗は曖昧な返事をした。
「一朗・・・しよ・・」
「うん・・・何を? って・・・・えええええっ!?」
 ぼんやりしていた一朗は生返事をしたものの、和七が何を言ったのか理解すると、飛び上がるほど驚いた。というのも、和七から誘われたのが初めてだったので。
「しよって言ったんだ。抱いて・・・・一朗・・・・僕が欲しがっちゃダメなのか?」
「ダメなもんか!」
 願ってもないことと、一朗は性急に和七をベッドに押し倒した。
「焦るな・・バカ・・逃げたりしないから・・・・」
 剥ぎ取るように和七の服を脱がした一朗は、所有の刻印を施す為にあらわにしたしなやかな身体に口唇を寄せた。
「いち・・・ろ・・・」
 甘い夜が始まる。


「綾ーっ! 電話よーっ!」
 母親が階下で怒鳴っている。綾は、わーった! と返事をして子機を取りにいった。
「ったく、ケータイくらい買ってくれよな」
 母親に悪態をつきながら、子機を受け取り自室に戻った。
「お待たせー。リョーちゃんだよーん」
『アヤ・・・』
「っ!?」
 一朗か和七だとばかり思っていた綾は、受話器から聞こえてきたのが今1番聞きたくなかった声だったので、思わず通話を断ち切ってしまった。
「なん・・・で・・・?」
 ズルズルとドアを背に、子機を抱えたままへたりこんでしまった綾は、溢れ出す涙に訳もわからず呆然としていた。
 一方湊は、一言も話をさせてもらえないまま切られてしまって、これまた呆然としていた。
「穂波のヤツ・・・・騙したな・・・」
 そもそも湊が綾に電話しようと思い立ったのは、穂波から『きっとアヤちゃんは湊からの電話を待ってるはずだよ』などと唆されたからだったのだが、実際に電話して門前払いを食わされるとは、全く思ってもみなかった。
 しかし、昨日までの腑抜けのような湊ではなかった。復活した湊はリダイアルした。トラブルで切れてしまったと、もう一度綾に取り次いでもらったのだ。
『アヤ! 切らないでくれ!』
「・・・・・・・」
『お願いだ・・・僕のことを嫌いになったのならそれでいい。でも、もう一度だけ話をさせて欲しい。明日、練習が終わったら生徒会室に来てくれないか?』
 綾は湊が何を言ってるのか、訳がわからなかった。綾が湊を嫌っているなんて、どうしてそんなこと言うのか。湊の方こそ恋人がいるクセに、人のことをからかったりしてと、こんなに苦しい思いをしてるのに。
『アヤが来てくれるまで待ってるから・・・じゃあ、おやすみ』
 湊は言いたいことを言ってしまうと、電話を切ってしまった。
「何訳のわかんないこと言ってんだよぉ!?」
『こうなったら徹底的に戦ってやる・・・・・』
 そう決心すると、綾は拳を堅く握り締めた。