「一朗、和七、俺今日一緒に帰れないから・・・・」
「うん? 何かあるのか?」
事情をわかっている和七だったが、綾は何も知らずに言った。
「決闘だ。勝負つけてくる」
「えぇっ!? 何だって? アヤ」
思っても見なかった言葉が返ってきたので、和七がギョッとして振り返った。
「ゆうべ電話で呼び出されたんだ。練習が終わったら生徒会室に来いって・・・」
「ちょっと待てよ・・・本当に決闘しようって言われたのか?」
「いや・・・わかんねぇ・・・でも俺はそのつもりだから・・・」
和七は唖然とした。
『森先輩って・・・よっぽど誤解を招きやすい人なんだな・・・コクろうと思って呼び出しても、決闘の申し込みだと思われてしまうんだから・・・』
苦笑しながらも和七は真剣な表情の綾を撫でた。
「負けるんじゃねーぞ。アヤ」
「おぅ!」
一朗に励まされた綾は力強く応えた。
「アヤ・・・来てくれたんだね・・・うれしいよ」
既に人払いは済ませてある。その辺はぬかりない。湊はキツイ目で睨みあげる綾に手を差し伸べた。
「座って。何か温かいものをいれてあげよう」
「いらない。話って何ですか?」
取りつく島もない綾の態度に、湊の頭に血が昇った。
「そんなに嫌われてるとは思ってもいなかったよ」
綾の挑戦的な態度と、睨み上げる目に湊の理性が吹き飛んだ。
「何すんだよっ!?」
突き飛ばされて、綾はソファに倒れ込んだ。上から圧し掛かられて身動きがとれなくなって初めて、湊を怒らせてしまったことに気づいた。
「もう一度最初からやり直したかったんだ・・・・友達なんて悠長なこと言ってないで、恋人として・・・・でも、そんなに嫌われてるとは思わなかった・・・」
「せ・・・先輩・・?」
「どうせ嫌われてるならメチャクチャにしてやる・・・」
「ヤっ・・・!」
あの時のようにシャツを引き裂かれ、噛みつくようにくちづけられて、綾は恐怖ですくみあがりそうになった。しかし、辛うじて奮い立ったのは自分がここに来た目的を思い出したからだった。
「本当に好きだったんだ・・・・アヤ・・・」
苦しそうに呟きながら湊の口唇が綾の首筋を辿っていく。
「やめてよ。先輩・・・俺がなんにも知らないガキだからって、からかってんの? 恋人がいるのになんで俺にこんなことすんの?」
綾の声は掠れて震えていたが、湊を驚かせるには充分だった。
「何だって?」
湊は動きを止めた。綾の身体をソファに縫いとめたまま、上体を起こした。
「イヤだよ・・・こんなこと、好きな人とするもんじゃないか・・・・」
「だからアヤとしたいんじゃないか!」
「アヤって呼ぶな! ウソつきっ! 俺の恋人になりたいなんて、最初っからウソっぱちだったんじゃないか! 恋人いるクセに! 重いからどけよっ!」
「僕には恋人なんていないっ! 一体誰のことを言ってるんだ?!」
身体を重ねたまま怒鳴り合うことが決闘の正しいやりかたなのかどうかわからないけど、少なくともアヤは押さえ込まれているが湊に負けてはいなかった。
「竹村先輩なんだろ? この間抱き合ってたじゃんか。俺、ちゃんと聞いたんだからな・・・・好きだって言ってたのを・・・」
下から睨み上げてくる目から涙が零れ落ちそうになっているのに気づいて、湊の表情がこれ以上ないくらいに柔らかくなった。