昼過ぎに待ち合わせして、話題のアクション映画を見ることにした二人は、早速街まで繰り出したが映画館に入るまでに3回も女のコのグループに声を掛けられた。
目当てが湊なのが露骨にわかって綾はちょっと機嫌を損ねたが、映画館を出る頃にはそんなことはすっかり忘れ果てていた。
「おもしろかったかい?」
「うん! すんげぇよかった」
「じゃあ、次はおいしいものを食べに行こうか」
湊の提案に綾は満面の笑みで答えた。
「うん! 俺もうおなかぺっこぺこ」
綾が湊の手を引っ張って行こうとした時・・・
「あの・・・松南の森湊様じゃございませんこと?」
鈴を転がすような声で呼び留められて、二人の足がピタッと止まった。
「そうですが、何か?」
気づかれない程度に不機嫌を顔に貼りつかせて、失礼にならない程度に湊は応対した。
「あの・・・私達、これからパーティーに行くのですが、よろしければご一緒にいかがですか?」
見ると彼女の背後では数人の女のコが期待に胸を膨らませて、縋るような目で湊を見つめていた。
「お誘いは嬉しいけれど、僕も彼もこれから恋人と約束してるので・・・・申し訳ないね」
「えぇっ!?」
「ウソっ!」
女のコの一人が失神したが、湊は気づかなかったフリをして、綾の手を引いてその場を後にした。
「せっ・・・先輩っ! 待って・・待ってってば!」
綾の制止を無視して、湊は早足でズンズン進んだ。
「先輩、痛いよっ! 痛いってば!」
「えっ? あ・・・・ゴメン・・・・」
綾の悲鳴でやっと我に帰った湊は、慌てて手を離したがアザになるくらい強く握っていたようだ。
「先輩・・・・一体どうしたんだよ? 女のコ倒れてたのに知らん顔したりしてさ。何か先輩じゃないみたいで、ヘンだよ」
「うっとおしかったんだ・・・僕は・・・綾以外の人間にはどれだけでも冷たくできる・・・こんな僕を軽蔑するかい?」
振り返った湊が泣き出しそうな顔をしていたので、綾は驚いたが笑顔を返した。
「軽蔑なんてしないけど、らしくないなって思っただけ。だって、先輩って優しい人ってイメージだったからさ」
「綾にだけだよ・・・」
公衆の面前だと言うのに二人は熱く見つめ合っていて、そのことに気づいた綾は真赤になって俯いた。
「そんなことより、何か食べに行くんだったろ? 綾の好きなものを奢ってあげるよ」
「ホントっ!? じゃあ、俺、スパゲティとかピザ以外のイタ飯がいい!」
パッと顔をあげた綾の目は喜びと期待に満ち溢れていて、湊は思わず苦笑してしまった。
「わかった。じゃあ、行こうか」
「うんっ!」
綾にシッポがあったなら、千切れんばかりに振られていたに違いない。