「ンまかったぁー。和七ンちはフレンチレストランだからさ、イタ飯ってのにちょっと憧れてたんだ」
その小さな身体のドコにそれだけの料理が収まったのかと思うくらいの空の皿を前に、綾は喜色満面の笑みを浮かべた。
「綾に喜んでもらえると、僕も奢った甲斐があったよ。じゃあ、行こうか?」
「今度はドコ?」
「今日の最終目的地の、僕の部屋」
瞬間、綾の身体が強張ったが、泣き出しそうに顔を歪めながらも、健気にコクンと頷いた。
「今夜は誰もいないから大丈夫だよ」
両親は職員に対する気遣いで、イブの夜は進んで夜勤をしていた。長兄の天は結婚が決まって既に家を出ている。次兄の陸が今夜穂波とデートなのは、先刻承知の上だ。
「好きだよ・・・・綾・・・」
「せ・・・先輩・・・」
軽くシャワーを浴びて、念願のバスローブを羽織ったまま、綾は湊に抱き締められていた。
「さ・・・ベッドに行こうか・・・」
「あ・・先輩、待って!」
綾の肩を抱いたまま、湊はベッドへと誘導して耳元へと口唇を寄せた。
「優しくするから、怖がらないで・・・・愛してる・・・」
吐息だけで囁いて耳朶を甘噛みしてやると、大抵の女は目を潤ませて腰砕けになった。今までは・・・・
「うっひゃあー」
なんと、綾は耳を塞いで飛びあがったのだった。
「な・・何? どうした?」
湊は心底驚いた。こんな反応されるとは思ってもみなかったからだ。
「くすぐったいよー。何すんだよ、先輩ぃー」
湊は心底驚いた。そんな反応されるとは思ってもみなかったからだ。
『感じるんじゃなくて、くすぐったい?』
綾とはとことん甘いムードにはなれないのだろうかと、湊が絶望的な気持ちになりかけた頃・・・
「先輩・・・・俺、何も知らないんだ・・・・だから・・・・だから・・・・どうしたらいいのか教えてよ・・・」
顔を真っ赤にして、泣き出しそうな表情で見上げられて、湊の理性はブチッッッッッと大きな音を立ててブチ切れた。
「綾っ!」
「あっ・・・せんぱ・・・」
い、は湊の口唇に吸い取られた。
余裕のない仕草でベッドに押し倒して、シーツに沈み込んだ綾にキスの雨を降り注ぎながら、湊は荒々しい仕草で互いのバスローブを剥ぎ取った。
「ヤ・・・・あ・・・」
細いけれど、鍛えられてしなやかな筋肉に覆われた胸や脇腹に手を滑らせていくと、綾の身体はピクンと跳ね上がった。
「感じてるんだね・・・綾・・・可愛いよ・・・」
綾の身体は小刻みに奮えている。気を良くした湊は、更に愛撫を濃くしていった。
そして、口唇で胸の突起に触れた途端・・・・
「ぎゃっはっはっはっ! 違うっ! 違うってば・・・くすぐったいよ。先輩・・・やめてったら!」
ベッドの上でのたうち回って笑い転げている綾を、湊は呆然と見下ろしていた。
数限りない経験から、自分のテクには絶大なる自信を持っていたのに、くすぐったいなどと笑い飛ばされては、落ち込むなという方が気の毒だった。
「りょおぉ・・・本当に僕のこと好き?」
恨みがましい目で見る湊を、笑い過ぎて目尻に涙を浮かべていた綾は、それを人差し指で拭いながら答えた。
「好きだよ。だからこんな恥ずかしいこともガマンしてるのに、先輩ったらくすぐったりしてヒドイよ・・・いくら俺がこんなこと初めてで何も知らないガキだからって、からかわないでよ・・・・」
愛撫をくすぐっているだって!?
綾がそこまでお子ちゃまだと思っていなかった湊は、これからどうしたらいいのか途方に暮れた。
「先輩・・・・俺、本当はすっげぇ怖いんだ・・・・だから・・・からかわないでちゃんとしてよ・・・・」
泣き出しそうな顔で訴えられて、湊は困り果てた。