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「あの二人恋人じゃないなんて言ってたけど、ホントなのかな? 随分しっくりと馴染んでるよね。湊もそう思わない?
「知るもんか! そんなこと」
 穂波の言葉に完全に冷静さを失ってしまった湊は、荒々しい足取りで生徒会室を飛び出した。
「穂波ぃ・・・湊をからかうのは仕事が全部済んでからにした方がよかったんじゃないか? どうする? この書類の山。俺は部外者だから知らないよー。もう引退しちゃったからねー」
 花井がニヤニヤしている。部屋の奥では生徒会メンバーが『隠居したヤツが来るなよ・・・』などと思っているとは、これっぽっちも考えていなかった。
「好きなら好きでさっさとコクっちゃえばいいのに、もう半年も手をこまねいて見てるだけなんだもん。だからついからかいたくなっても仕方ないでしょ? 先輩だって同じ気持ちだから引退してもココに来るんじゃないの?」
 穂波はそう言ってクスクス笑った。
「だってアレ初恋なんじゃないのか? 一から手ほどきしてやらなくてもいいのか?」
「ジョーダン・・・先輩。一からって、コクるシチュエーションとかその時のセリフとか、キスするタイミングとかその先までの・・・・・ってことでしょ? 湊ってチューボーの時から後輩からマダムまで海千山千だよ。でもアヤちゃんが初恋ってのはホントみたいだけどね」
 穂波の無邪気な爆弾発言に、花井以下その部屋にいた全員が爆死しそうになった。

 一方、生徒会室を飛び出したものの、大人気ない行為にスグに反省した湊だったが、無意識のうちにグランドの方へと足が向いていた。
『あの笑顔を僕だけに向けて欲しいんだ・・・・』
「先輩・・・?」
 ぼんやり物思いに耽っていた湊は、背後から声を掛けられて飛びあがるほどビックリした。
「アヤ・・・・」
 振り返った湊は、そこに想い人を見つけてうっとりと微笑った。
「リョウですってば・・・・」
 綾が頬を膨らませるのを可愛いと思った湊は、知らず知らずのウチに呟いていた。
「僕とつきあってくれる?」


 今週の片付け当番の一朗と和七は、体育倉庫に器具をしまって更衣室に引き上げる途中で、先に行った筈の綾が水道の前に湊といるのに気付いた。
「一朗。アレ、森先輩じゃない?」
「だよな。アヤに何の用だろ?」
「しーっ。静かに・・・・」
 楠の太い幹の陰に隠れた二人は、綾と湊の会話に耳を欹てた。
「僕とつきあってくれる?」
 いきなり直球の湊のセリフに、一朗も和七も飛び上がらんばかりに驚いた。声を上げなかったことは、自分を褒めてやりたいと二人は思った。
「い・・・・一朗・・・コレって・・・・」
 和七が一朗を見上げると、一朗も複雑な表情で和七を見下ろしていた。
「やっぱ、アレだよな・・・」
「だよね・・・・」
『アヤは何て返事をするんだろう?』
 一朗と和七は胸をドキドキさせながら同じことを思っていた。
「いいですよ」
「――――――っ!」
 綾がそう返事するのを聞いた二人は、そっとその場を離れた。