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「森先輩の恋人って、竹村先輩じゃなかったの?」
 更衣室まで遠回りしながら、和七は尋ねた。
「さっき、竹村先輩と抱き合ってたよな・・・・なんでアヤはOKしたんだろ?」
「ウワサって・・・・やっぱりウワサでしかないのかな?」
「俺にもわかんねぇよ・・・そんなこと・・・・」
 それきり二人は黙り込んでしまった。なんだか綾が遠くに行ってしまうような気がしていた。


「いいですよ」
 すんなりOKを貰って、湊は天にも昇る思いだった。しかし・・・・
「ドコに行くンすか? 先輩にはいろいろよくしてもらってるのにお礼もできなかったし、今日はドコへでもつきあっちゃいますよ」
「えっ・・・?」
 綾が付き合うという意味を勘違いしてるとわかって、湊の気持ちは天国から地面へと急降下した。
「じゃあ、俺急いでシャワー浴びて着替えて来るから校門のトコで待ってて下さいね」
 間違いを訂正することもできないまま、走っていく綾を見ていた湊は気を取り直すと、生徒会室に置きっぱなしの鞄を取りに向かった。
『お茶でもしながら気持ちを伝えたらいいか・・・・嫌われてはいないようだし・・・・』
 そう思うと、少しは気持ちが浮上するような感じがした。


「一朗、和七、俺今日は一緒に帰れないや」
 綾はシャワーを浴びながら、既に着替え始めていた二人に声を掛けた。
「えっ・・?」
 やっぱり・・・と、一朗と和七は顔を見合わせた。
「森先輩が、付き合って欲しいトコがあるんだってさ。ホラ、俺達先輩にはいろいろ世話になってるからさ。お礼のつもりで行ってくるよ」
「えええっ!?」
 和七は、考えてもいないことを言われて、大声を上げた。
「おい、和七・・・・わかってないぞ・・・アヤ」
「どうしよう? 一朗」
「先輩は生徒会長だから、今日いきなりどうこうされるってことはないだろうから、少し様子を見るか・・・」
「いきなりどうこう・・・・って・・・」
 その「どうこう」に思い至った和七は、真赤になって俯いてしまった。
「何照れてんだよ? どうこうどころかアレコレしてるじゃないか、俺達」
「一朗ったら・・」
 強引なんだから・・・・という和七の抗議のセリフは、柔らかく降りてくる一朗の口唇に吸い取られてしまった。
「清楚な美人が好みなんじゃなかったの?」
 口唇が離れた途端に和七に睨まれた一朗は、覚えてたのか、と苦笑した。
「だって、恋人になって間なしだったのに、あんなこと言うんだもん・・・ショックだったんだから・・・ケンカばっかりしてたから、僕が清楚じゃないのは火を見るより明らかじゃないか・・」
 恋人の恨み言も睦言に聞こえてしまう当たり『俺も腐ってるよな・・』などと一朗はニヤニヤした。
「ねぇ、何ヒソヒソやってんの?」
 何時の間に出てきたのやら、綾が着替えを済ませて立っていた。
「えっ? あ・・・いや・・・その・・・・」
 しどろもどろになる一朗に、綾は首を傾げた。
「ヘンなのー。何か悪いモンでも食ったのか? 行こうぜ」