3人で並んで校門までやって来ると、湊は既に来て綾を待っていた。
「先輩。お待たせー」
今、綾の笑顔は自分一人に向けられていることに嬉しくなった湊は、一朗や和七にもニコニコ愛想を振りまいた。
「今日はアヤを借りていくね」
「どうぞどうぞ。先輩には愛好会のことで一方ならぬお世話になっておりますので、こんなのでよろしかったらいつでもおっしゃってくださいませ」
一朗がおどけて言うのを、綾は苦虫を噛み潰したような表情で聞いていた。
「俺は貢ぎ物かよ?」
「お代官サマ。こんなじゃじゃ馬ではございますが、どうかお納めください」
「越後屋、お主もワルよのぉ」
湊まで一緒になって悪乗りしているので、和七はクスクス笑い出した。
「先輩。アヤが悪さをしたら遠慮なく叱ってやってくださいね」
「了解。じゃあ、行こうか。アヤ」
「リョウですってば・・・何なんだよ、みんなして俺のこと子ども扱いして・・・・」
綾はプーっと頬を膨らませた。
駅前にある、松南高生御用達の喫茶店に入るのかと思ったら、通りを1本入ったところの高級感漂う店に連れて来られたので、綾は財布の中身が心配になった。
運動した後だったので、甘いものが欲しかった綾はココアを注文した。
「何か食べる? おなか減っただろ? 今日は僕が奢るから好きなものを注文していいんだよ」
カフェオレを注文した湊の申し出を恐縮しながらも受け入れて、綾はミックスサンドも注文した。
注文したものが全部目の前に並んでウエイトレスが下がってから、湊はおもむろに切り出した。
「ねぇアヤ。僕がさっき言ったことは、ここに付き合って欲しいってことじゃなくて、その・・・つまりね・・・・・僕と交際して欲しいってことなんだ」
ココアのカップに口をつけていた綾は驚いて、目を瞠った。カップをソーサーに戻すと、つりあがり気味のアーモンドアイズを湊に向けた。
「あの・・・俺、女のコじゃないんだけど・・・・」
「知ってるよ。ウチは男子校だしね。ダメかな?」
綾は戸惑ってしまった。
「僕はこの半年ずっとアヤを見て来た。愛好会で頑張ってる様子とかね・・・それで僕はアヤに惹かれたんだ。一生懸命やってるのがいじらしくて可愛いなと思ってた。アヤの笑顔が僕だけのものになったらいいなと思ってきた。こんな気持ち・・・迷惑かな?」
「先輩・・・」
綾はなんて答えたらいいのか戸惑っていた。告白をされたのも始めてなら、個人的に特別に親しくしてるのは一朗と和七だけだったので、どうしたらいいのかもわからなかった。
「最初は友達からってのでいいから、僕をアヤの特別な一人にして欲しい」
強引に話を進められて、綾はますます混乱した。
「と・・・友達なら・・・・・」
綾は自分の顔が真赤になっているのがわかって、恥ずかしさのあまり俯いて小さな声で答えた。
「ごめんね。いきなりこんなこと言われて困ってるよね。でも、僕はアヤのことが本当に好きなんだ。今日は僕の気持ちを伝えられてよかったよ。ありがとう」
俯いたまま湊の顔も見ることができずに小さく頷いた綾に、湊は苦笑した。
「さぁ、ココアが冷めちゃうよ。もうヘンなこと言わないから、顔を上げてくれる?」
それからは、とりとめのないことを話して、少々ぎこちなくなってしまったものの、二人はそれなりに楽しい時間を過ごしたのだった。