翌日の昼休み。綾と一朗と和七は綾のクラスの窓際の席に陣取って弁当を広げていた。3人ともバラバラのクラスだったので、綾のクラスに集まるのが常になっていた。
「昨日はあれからどうだったの?」
和七に訊かれた綾は、一瞬で真赤になってしまって、一朗と和七は凍りついた。
「ま・・・・まさか、お前・・・先輩に・・・・」
「うん・・・・好きだってコクられた・・・」
俯いたまま答えた綾に、良からぬ想像をしていた一朗と和七はホォーっと、詰めていた息を吐き出した。
「なんだ。そうか・・・・よかった。俺はまたよからん想像をしてた」
一朗の言葉に和七が目を吊り上げた。
「一朗ってば、バカ! それでアヤは何て返事したの?」
「うん・・・・友達からでいいって先輩が言うから、友達ならって・・・」
「そう・・・よかったね」
和七が微笑むのに、綾は思いつめたような顔を上げた。
「でも! 変じゃないか? 俺達男なのに・・・和七、気持ち悪くない? 一朗は?」
綾が泣き出しそうな顔をしているのに、一朗はギョッと顔を強張らせたが、和七は微笑んだまま爆弾を落とした。
「変じゃないよ。気持ち悪くもない。だって、僕と一朗だって男同士だけど恋人同士なんだもん」
「・・・・・・・・・・え?」
たった今まで泣き出しそうに歪んでた綾の顔は、今度は驚愕の為に呆けたように緩んでしまった。
「ゴメンね。今まで黙ってて・・・・ホントは一朗も僕もずっとずっとアヤのことが好きだったんだ。でも、アヤに嫌われたくなくて言えなかった。知らなかっただろ? 僕達の気持ち・・・・」
「う・・・うん・・・」
和七の告白は思いがけないもので、綾はただうなずくことしかできなかった。
「最初、お互いがアヤを想ってるってことに気付いてからは、抜駆けしないように牽制し合ってたんだけどね、あんまりアヤが鈍感で僕達の気持ちに気付いてくれないから、一朗と愚痴のこぼしあいしてるウチにね・・・・こんな関係になってた」
「そ・・・そうなんだ・・・?」
「僕達はまだアヤが好きだよ。でも、恋愛感情じゃなくなったのは確か。今は保護者の気分かな・・・こんな僕達のこと、気持ち悪い? もう友達でいるのもイヤだと思う?」
和七に畳み掛けるように訊かれて、綾は夢中で首を振っていた。
「ううん、ううん。気持ち悪いなんて思わない。ちょっとビックリしたけど・・・でも、和七達こそ、俺のこと邪魔じゃない? 恋人同士なら二人っきりでいた方がいいんじゃないか?」
真剣に答える綾に、和七はニッコリ笑った。
「アヤがいてくれた方がイイんだ。でなきゃ、僕の身が持たないんだよ。一朗ってケダモノだから」
おとなしそうな顔をしているクセに、またしてもの和七の爆弾発言に、ボンッと音がするくらい綾は真赤になった。
「お子ちゃま・・・・」
それまで和七に言いたい放題言われていた一朗が、ボソッと呟いた。
『俺と和七もそうだったけど、このお子ちゃまと恋愛したいなら、先輩は苦労するだろうな・・・・』
実際、湊は未だかつてない苦労を強いられる羽目になる。
昼休み。弁当を食べ終わると、綾は一朗達と別れて学食にやってきた。キョロキョロしていると、向こうの窓際で手を振る湊が見えたので、パタパタと駆け寄った。
「先輩。待った?」
「いや、僕も今来たとこだよ。それより期末テスト前で部活動停止になったから、放課後一緒にテスト勉強しないか?」
綾と湊が友達としてつきあい初めて1週間が経っていた。今のところ湊の我慢と努力と忍耐の下に、二人は清く正しく美しい交際を続けていた。
「えっ、いいの? 俺、先輩と違ってバカだから、迷惑じゃない?」
「迷惑じゃないよ。一人でするより張り合いがでるから、能率も上がるんだよ。それにわからないトコがあれば教えてあげられるよ。傾向と対策もバッチリだしね」
そう言って湊はウインクした。
「ホント? 俺すっげぇトクした気分」
「じゃあ、放課後生徒会室で待ってるから、一緒に帰ろう。僕の部屋でいいよね?」
綾がコクンと頷くのを見て、湊は目を細めた。
そんな二人の様子を、遠巻きにしながら見ているいくつもの目があったことに、綾は気付いてなかった。