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「一緒にシャワー浴びるか? それとも一人がイイ?」
 部屋に入るなりそう訊かれて、弓弦はまた悲しくなった。一矢は本当に身体だけが目当てなのだと思い知らされて、情けなくなった。
「あの・・一人で・・・」
「ん、わかった。じゃあ、先に使えよ」
 泣き出しそうになるのをこらえて、弓弦はバスルームに入った。

 弓弦がバスルームに消えると、一矢は大きなため息をついた。
「なんだかなぁ・・・」
 自分から持ちかけた話とはいえ、弓弦があっさりとセフレになってくれたことに、一矢は驚いていた。
 相変わらず和み系でポヤポヤしてるくせに、ちゃんと女と経験を済ませていたり、軽い男じゃないと思っていたのにセフレになることをOKしてくれたり、卒業して逢わなくなってから弓弦は随分変わってしまったようだ。
 一矢は冷蔵庫から出した缶ビールを煽った。

「あの・・お先に・・・」
 いつもより念入りに身体を洗った弓弦と入れ替わりに一矢がシャワールームに消えた。
(どうしよう・・・)
 一矢に抱かれるのは2度目だけど、記憶がない弓弦にとっては初めての経験と同じ訳で、こうなることは自分が承諾したのに、逃げ出したいと思うほど怖くなってきた。
 テーブルの上には一矢が飲みかけにしたままの缶ビールが露をまとっていた。弓弦はそれを一息に飲み干すと深呼吸して覚悟を決めた。

「そんなに緊張しなくても・・」
 シーツの波に沈めた弓弦の顔が青ざめて強張っているのに気づいた一矢は、両手で頬を包み込んだ。口づけようとしたが寸前で思いとどまって、口唇でなく耳朶を甘噛みした。
「・・・キスは好きな人とするんだったな」
 吐息と共に耳に直接吹き込まれた一矢の言葉に、弓弦の瞳が揺れた。
 お前のことは好きじゃないからキスしないと言われたようで、悲しくて口唇を噛み締めた。
 一矢の口唇は弓弦の耳朶から首筋を辿り、鎖骨で一旦止まると刻印を施した。
「あ・・」
「感じるのか?」
 潤んだ目で見上げる弓弦はやっぱり可愛くて、一矢はこの間以上に気持ちよくしてやりたくなった。

 口唇にキスしてくれないことを除くと、一矢に愛されているのではないかと、思い違いしてしまいそうになるくらい優しく抱かれた。
 思わず上げてしまった声は、自分でもギョッとするくらい妖しく、前に抱かれた時もこんな声を上げていたのかと思うと、弓弦は気が変になるくらい恥ずかしくなった。
両手で口を塞いで声が上がるのを抑えようとしても、一矢がそれを許してくれなかったので、抱かれている間中濡れた甘い声を上げ続けていた。
 セフレなんだから、もう少し乱暴に扱われるかもしれないと思っていたのに、時間をかけて丁寧に後ろをほぐされた。
 最後には弓弦は、恥も外聞もかなぐり捨てて、挿れて欲しいと泣き叫んでいた。
 やっとのことで挿れてもらったときには、弓弦的には初体験なのに、ソコが単なる排泄孔でなく、性器に変えられてしまった錯覚を起こしたかのように、感じてしまった。

「ゆづって、ソッチの素質もあったんだな。ホント、イヤらしい身体してる・・」
 嵐に巻き込まれたかのような時間が過ぎて、何度となく達かされた弓弦はぐったりと目を閉じて、ふわふわと夢の中を漂うように余韻に浸っていたのだが、満足したらしい一矢の揶揄するようなその言葉に、冷水を浴びせられたかのように、一瞬にして現実に引き戻された。
「なんだか病みつきになりそうなくらいヨかったぜ」
 弓弦の強張ってしまった頬にキスを落として一矢はそう言うと、汗を流しにバスルームに入っていった。
「か・・帰らなきゃ・・・」
 軋みをあげる身体に鞭打って急いで衣服を身につけると、弓弦は一矢がシャワールームから出るのを待たずに、逃げるように部屋を飛び出した。
 帰り道で望に報告の電話を入れると、今からおいでと言われた。弓弦は少し迷ったが、その言葉に縋りついた。
 このまま一人で夜を明かすのが辛かったから。