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「・・ゆづ・・?」
 弓弦が部屋を出て行って1時間ほど経って目を覚ました一矢は、隣に寝ているはずの弓弦の姿が見えないことに気づいた。
「帰ったのか・・」
 絵梨(えり)と別れて半月、かつての悪友達がおもしろがって”励ます会”を開いてくれた店に偶然弓弦達が現れて、そのまま合流して盛り上がった。
 弓弦が酔い潰れたので自分の部屋に連れ帰って、そのまま抱いてしまったのは、決して絵梨の代わりにしたかったからじゃなかった。
 2年前、サークルの新歓コンパで目をキラキラさせた一人の新入生が自分を見ているのに気づいてた。
 頬が白桃みたいにふっくらしててまだ子どもっぽい顔立ちの上、名前が弓弦だなんてなんだか自分と対みたいで、しかもずっと自分に憧れてたなんて言うものだから、犬っころみたいでカワイイなと思った。
 卒業するまでの1年間、無邪気に懐いてくる弓弦をいつも側において可愛がってきた。流石に卒業してからはお互いに付き合ってる女のコがいたし、何かと忙しくて疎遠になっていた。
 久しぶりに会った弓弦は少し頬がすっきりして子どもっぽさが抜けていたけど、相変わらず自分のことをキラキラした目で見上げてきて、やっぱり犬っころみたいでカワイイと思った。
 ヤバイなと思ったけど、酔っていたせいもあるのか、男を抱くのは初めてなのに違和感はなかった。妊娠する不安もなくて、返って気がラクだったかもしれない。
 一矢自身が覚えていなければ、弓弦がいたという痕跡は全く残ってなかった。もしかしたら、弓弦を抱いたというのは、酔った上で見た夢だったのかもしれない。それほどまでにキレイに弓弦は消えていた。
 のっそりとベッドから出た一矢は、ジーンズのポケットに入れていた携帯を取り出すとメモリーをチェックした。





 シャツの胸のポケットに入れていた携帯が鳴って、弓弦は条件反射的に開いた。
「先輩・・・」
 表示されていたのは一矢の番号で、弓弦は咄嗟に留守電にしていた。
 今一矢と話ができる精神状態じゃなかった。






『只今電話に出ることができません。御用のある方は発信音の後・・・』
「ちっ、逃げられたか・・」
 十分予想されたことだけど、やはりムッとした。
 臆病なところのある後輩だとはわかっていた。でも、酔っていたとは言え、ゆうべはあんなに情熱的にしがみついてきたクセに、と一矢は一夜の情事を思い出していた。