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「ホラ、ゆづ、起きろ。帰るぞ」
 久しぶりなんだからとみんなによってたかって酒を注がれて、限界を超えてしまった弓弦は2軒目についてすぐに撃沈していた。流石に3軒目には連れて行けないと、一番可愛がっていた一矢が介抱役に任命されたのだった。
「んー・・・帰るのぉ? ドコへー?」
 トロンと潤んだ目で見上げてくる弓弦はなんだか色気があった。それまでまったくソッチの気がなかったのに、なんだか心にさざなみが立ったように感じた。
「俺んちの方が近いから今夜は泊まってけ」
「・・うれしーな・・・先輩んちに泊まれるんだぁ?」
 ニヘラっと笑うと、弓弦は夢の国の住人になった。
 タクシーに揺られている間、ずっと弓弦は一矢にしがみつくようにして眠っていた。
 一矢より小柄とはいえ弓弦も男なので、さすがに熟睡していると抱き上げるのにも一苦労だった。
 なんとかベッドに押し込んで一息ついたとき、弓弦がパッチリと目を覚ました。
「あれ・・・ここドコ? 吉村ぁ?」
 起き上がってキョロキョロと辺りを見回す。
「寝ぼけてんのか、ゆづ。吉村は三宅にくっついて3軒目に行ったぞ。ココは俺んち」
 説明してやると、フラフラしてた弓弦の視線はピタっと一矢で止まった。
「あれ・・・高倉先輩だぁ・・」
 完璧酔っている弓弦は怖いもの知らずで一矢ににじり寄っていった。
「なんかうれしーなぁ。ホンモノだぁ。もぉずっとずっと会いたかったんだよぉ」
 恋焦がれる相手のように、弓弦は一矢に抱きついた。素面では絶対にしない所業だ。
 一矢が在学中、生真面目な弓弦は未成年だからと飲み会でも酒を飲まずにいたため、こんな風に子どもに返るとは知らなかった。
「おい、ゆづ、大丈夫か? 吐きそうになったらスグに言えよ」
「だぁいじょおぶぅ。だってとても気持ちイーんだぁ」
 一矢の胸にほお擦りしながら、弓弦はご機嫌だった。
「なら、もっと気持ちヨクしてやろうか?」
 今思うと何故そんなこと口走ってしまったのかわからない。
 弓弦は一瞬キョトンとした顔で見上げてきたけど、ニヘラっと笑って「してぇ」と言った。
 ヤリたい盛りに半月以上もご無沙汰してたので、一矢にも火が点いてしまった。

「あのコとヤッたことあるんだろ?」
 名前は忘れたけど、弓弦はポワポワした雰囲気の女の子と付き合ってた。二人とも和み系でお似合いだと思ってた。
「何をー?」
 ポワンと見上げて弓弦は訊く。
「ヤッたって言やぁセックスに決まってるだろが。ハタチ過ぎてるクセにカマトトか、お前は」
 ベッドに押し倒しながら言うと、弓弦は口唇を尖らせた。
「シたけどぉ。俺ってヘタクソなのかもぉ。あれからソッコーでフラレちゃったしぃ」
「別れたのか? 今はフリーなのか?」
 シャツのボタンを外していくと、くすぐったいのか弓弦はクスクス笑って頷いた。
「フリーだよぉ・・女の子って見かけによらないからぁ、もぉ怖くて近寄れないって感じぃ?」
 まるで女子高生のような口調で、弓弦は愚痴った。
 あらわになった上半身は酔ってるせいでピンクに染まっている。一矢は中でも色づいている乳首を指で摘んだ。
「あっ・・・」
 感じたのか、ビクンと弓弦は身体を弾ませた。
「なんだ、この程度で感じてんのか? ホントにこんな感じやすくて女抱けたのかよ」
 意地悪く言葉で弄ってやると、弓弦は恨めしげに睨んできたが、潤んだ瞳でそうすることで、どれほど男の劣情を煽るのか知らないのだろう。
「そんなこたぁ、どうでもイイけどな。どうせ今夜はお前が俺に抱かれるんだから・・」
 あごを持ち上げて一矢が口唇を重ねようとすると、弓弦は首をかしげてじっと目を見つめてきた。
「先輩ぃ・・俺のこと好きなのぉ?」
 不意に訊かれて、一矢は一瞬返事に詰まった。
「・・キライじゃない・・」
 返事にヘンな間ができた。