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「なっ!?」
 あまりに絶不調が続くので、一度全部リセットするまで酔い潰してしまえと、渋る一矢を引きずって夜の街に繰り出したが、目の前で繰り広げられた光景がにわかには信じられず、一同絶句した。
「ユミとノンじゃねぇか・・・アイツらデキてたのかよ・・」
「この間の励ます会ではそんな素振りなかったから、全然気づかなかったけどね・・・・いつからなのかな・・」
 大抵のことには動じない秀悟も、流石に目をまん丸にしていた。
「俺訊いてくらぁ」
 好奇心旺盛な飛雄は早速駆け出していった。
「一矢は知ってた?」
 秀悟が振り返ると一矢は紙のように真っ白に顔色を失って、呆然と立ち尽くしていた。
「おい、一矢・・・・もしかして、相手って・・牧村、じゃないよな。坂巻くんなのか?」
 愕然となっている一矢から返事はなかったが、それが何よりも正解の証明だと秀悟は確信していた。

「おーい。ノン! 待てよ」
 飛雄は弓弦をおぶってよたよた歩いている望にすぐに追いついた。
「あれー。仲だぁ」
 望の背中で眠る態勢に入っていた弓弦だったが、飛雄の姿を見ると嬉しそうに笑った。
「お前らがキスしてたのが見えたんだけど、その・・デキてんの?」
 いきなり核心を突いた飛雄だが、望が思わせぶりに笑ったので少し驚いた。
「ご想像にお任せということでいいかな。今夜はゆづちんがこんな状態なんで、もう帰るトコなんだ」
 向こうに秀悟と一矢がいるのが見えて、望は軽く会釈をした。両手は弓弦をおんぶしてふさがっていたので。
「仲も一緒に行こうよー」
 弓弦が無邪気に誘う。飛雄は頬が引き攣りそうになった。
「い・・行くってどこへ?」
「何言ってんだよぉ。家に帰るんだってばぁ」
「い・・家って・・」
 弓弦のお子ちゃま攻撃に慣れてなくて、たじたじしている飛雄に、望は吹き出した。
「ゆづちんと俺、この間から一緒に住んでんだよ」
 流石の飛雄も口をあんぐり開けて固まってしまった。

「相手って、ユミだったのかよ!」
 今日一日で何度心臓が止まりそうになっただろうか。取りあえず入った居酒屋で、秀悟から事実を知らされた飛雄は絶句して、ぐったりと椅子に寄りかかった。
「それより、牧村と坂巻くんが一緒に暮らしてるってことの方が驚きだったね」
 秀悟も予想外の展開に驚きを隠せないようだった。
 仏頂面の一矢は無言で、ただひたすらグラスを煽っていた。
「あれだけ一矢のこと慕ってたのに、セフレなんかにしてたんだ?」
 秀悟の口調は一矢を責めていた。
「憧れの先輩に言われりゃ、断れなかったろうよ。ユミも気の毒に・・・」
 弓弦と望のキスシーンを目の当たりにしただけでもかなりショックを受けたのに、二人がかりで責められて、一矢の精神状態はかなり不安定になっていたが、気づいていながら二人はお構いなしに攻撃を続けていた。
「恋愛感情これっぽっちもなかったのか?」
 秀悟の言葉に、グラスを煽る一矢の手が止まった。
「たとえ恋愛感情あったとしても、もう手遅れだっての。ユミがノンにキスしてたということは、そういうカンケーだってことだし、一緒に暮らしてるんだぜ」
 一矢の顔色が変わったのに気づいていたが、秀悟と飛雄の攻撃は止まらなかった。
「保育士だから、酔っぱでお子ちゃまなユミがツボにハマッたんだろうな」
「いや、そうじゃないと俺は思うね。一矢に傷つけられた坂巻くんを慰めてるうちに、同情が愛情に変わったクチじゃないかな」
「でも、アイツら二人ともネコくさいんだけどな・・・どうやってヤッてるのか見てみたい気がする・・・って、ナニすんだよっ!? カズヤ」
 とうとう我慢できずにキレた一矢が、飛雄の言葉を遮るように、グラスの酒をぶっかけていた。
「帰る」
 押し殺したような低い声で一言言うと、テーブルの上に1万円札を叩きつけ、唖然とする二人を残して、一矢は店を飛び出した。
「やり過ぎたか?」
「さあ? でも、これでカズヤも自分の気持ちに気づいたんじゃねぇ?」
「だといいけど・・・」
 秀悟は酒をかけられた飛雄の顔を、ハンカチで拭いてやった。