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「あのさぁ、高倉。ゆづちんのことが好きなら、そう言ってやってよ。俺が一緒にいて甘やかしてるから、大分立ち直りつつあるけどさ。やっぱり何かの拍子に淋しそうな表情見せるんだよね」
「牧村・・」
「あのコが好きだって気づいたんだろ?」
 望の言葉に一矢は泣き出しそうな顔になった。
「俺・・・・」
 何か言おうとするのに、言葉にならなくて俯いた一矢の頬に、望は手を触れた。
「自分の心に素直になってごらん。今、どうしたい?」
 保育士さん仕様の望に優しく尋ねられて、顔を上げた一矢は答えた。
「ゆづに・・・キスしたい・・・」
「じゃあ、どうすればいいか、もうわかるね?」
 一矢は頷くと携帯を取り出した。





 着メロが一矢からのコールだと告げている。声を聞きたいけど、聞くのが怖い。
 どうすればいいのか相談したいのに、肝心の望は垣内が明日非番なので、久しぶりの逢瀬に出かけていて、今夜は戻ってこない。
 しばらく迷っていたが、弓弦は意を決して通話ボタンを押した。
「・・・はい・・・」
『・・ゆづ・・・・逢いたいんだ・・・』
 聞こえてきたのは、押し殺したような一矢の声だった。
「先輩・・・」
『頼む・・・今から出てきてくれないか・・・』
「・・・」
 思いもかけないことを言われて、弓弦の頭の中は真っ白になって、返事ができなかった。
『ゆづ・・どうして何も言ってくれないんだ? もう俺になんて逢いたくないのか? それならそう言ってくれ・・・』
 弓弦の裁決を待つような苦しそうな一矢の声で、弓弦はようやく口を開いた。
「ど・・どこに行けばいいですか?」
 自分でも声が震えるのがわかった。携帯を持つ手には無意識の内に力が入っていた。
「俺のアパートに・・・」
「わかりました・・」
 通話を切った途端、身体がガタガタ震えだした。
「な・・なんで・・? どうしよう・・・でも、行かなきゃ・・・・」
 弓弦は財布と携帯をポケットに入れると部屋を出た。





「上手くいくといいな・・・ゆづちん」
 1ラウンド終了して、垣内に抱かれたまままどろんでいた望がふと呟いた。
「望・・俺のベッドの中で、他のオトコのことを考えるんじゃない」
 どうやら嫉妬したらしい垣内に再びのしかかられて荒々しく口唇を塞がれた。舌を痛いくらい強く吸われて、望は首を振って抵抗した。
「ちょ・・・ゆづちんはそんなんじゃないだろ・・・・あぁっ・・ん・・・」
「逆らうな。ベッドの中では俺のことだけ考えてりゃいいんだ・・・」
 まるでおしおきでもするように、垣内は望の乳首に歯を立てた。
「痛いっ・・・あ・・ん・・」
 抗議の声を上げる望に、垣内は今噛んだ乳首をなだめるように舌で転がした。
「やぁ・・・も・・いじわる・・・」
「そのいじわるな男が好きなんだろ?」
 熱く熟れている最奥に指を沈めながら、垣内は望の耳に吐息だけで囁いた。
「もぅ・・焦らさないで・・・早く・・・来てぇ」
 久しぶりで、一度では納まらなかった身体の中の熾火を再びかき立てられて、望の声は甘く掠れていった。