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「・・・来てくれたんだ・・・」
 ドアを開けた一矢は弓弦の姿を見ると、ホッとしたように笑った。
「こ・・こんばんは・・」
 顔を見ることも怖くて、俯いたまま挨拶した弓弦を一矢は招き入れ、ドアが閉まると同時に抱きすくめた。
「逢いたかった・・ゆづ・・・」
「あ・・・先輩・・・」
 思いがけない一矢の行動に、弓弦は身体を強張らせた。俯いたまま一矢の肩に額を預けて、ただ震えていた。
「ゆづ・・・好きだ・・・」
 一矢の告白に弾かれたように弓弦は顔を上げた。驚いて目を瞠った弓弦の顎を指で支えて持ち上げると、一矢はそのまま口唇を重ねた。
「好きなんだ・・・ゆづ・・・」
 口唇が離れると、熱く口説かれて弓弦は眩暈を感じた。
「・・せんぱ・・」
 再び近づいてくる一矢の顔がぼやけて、目を閉じた弓弦の頬を涙が滑り落ちた。
「泣かせてごめんな・・ゆづ・・好きだ・・」
 一矢はどんどん溢れてくる弓弦の涙を口唇で吸った。
「お・俺も・・・」
 みなまで言えずに再び口唇が塞がれた。性急に忍び込んできた舌が弓弦のそれに絡んで、濡れた音を立てる。深くなるくちづけに、弓弦は魂まで吸い取られるような気がした。
 口唇が離れても二人を銀の糸が繋いでいる。
「ゆづ・・・お前も俺を?」
 弓弦は潤んだ目で一矢を見つめたまま頷いた。
「ずっと・・好きでした・・」
「俺はもうお前が憧れてたアスリートじゃなくなったけど、それでも・・・ それでも、好きでいてくれるか?」
 弓弦は頷くと、一矢にしがみつくように抱きついた。
「好き・・・大好き・・」
 嬉しくてワンワン泣き出した弓弦を一矢は乱暴に抱き上げた。
「いろいろ話したいことがあるけど、とりあえず今はお前を抱きたい」
「えっ・・」
 いきなりの展開に、弓弦は息を飲んだ。
驚きで涙が止まった弓弦の頬にキスを落とすと、一矢は寝室に向かった。

「あ・・・」
 ベッドにそっと下ろされると、子どものように大泣きしたことが恥ずかしくてたまらなくなって、弓弦は逃げ出したくなった。
「ゆづ・・欲しい・・・」
 押し倒されて抱き締められると、一矢の匂いに包まれた。
「夢・・・かな・・・?」
 熱に浮かされたように頬が熱くなるのがわかる。弓弦は夢なら覚めないで欲しいと、目の前の一矢にしがみついた。
「夢じゃないさ・・・ゆづ・・・」
 しばらくの間、二人は何も言わずにただ抱き合って、お互いのぬくもりを確かめ合った。

「ゆづ・・・落ち着いたか? 俺、もう限界・・抱くぞ」
 一矢はそう宣言すると、弓弦のシャツを脱がせ始めた。
「まっ・・待って、先輩・・・」
 一刻も待てないというように性急な一矢の手を掴んで、弓弦は抵抗した。
「待てない。待たない」
 一矢は、あっという間に弓弦を裸に剥くと、拒絶の言葉を吐かれる前に、弓弦の口唇をふさいだ。
「ん・・・ぅん・・・」
 荒々しく口内に侵略する一矢の舌にたどたどしく応えながら、弓弦は眩暈がするような幸せを感じていた。