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 扉が開く音に振り返った恵史は、怒りの形相で立ち尽くす裕を見て息を飲んだ。
「裕せん・・・」
 微笑みかけた恵史は、次の瞬間、教室の床に転がされていた。
「痛っ・・・! 何を・・・」
 驚きに目を瞠る恵史の頬を容赦なく殴り飛ばし、ぐったりとなったところを圧し掛かっていった。
「イヤッ! やめ・・・」
 恵史の渾身の抵抗を難なく封じ込めて、シャツを引き千切るように毟り取ると、胸のピンクの飾りに吸いついた。
「イヤだぁっ! どうしてっ!? 裕先輩・・・」
「中村の方がよくなったのか? さっきキスしてたよな。もう全部許したのか? 俺にもさせろよ」
 ベルトを引き抜き、それで恵史の両手を拘束してから下着ごとズボンを引き下ろした。
「イヤだっ! 先輩・・・何言ってるの? どうして・・・?」
 恵史の白桃のような頬は赤く腫れていて、そばかすは涙に濡れていた。いつも笑顔に彩られている顔が恐怖に歪み、華奢な身体はおこりのように震えていた。
 裕は自分の気持ちの制御が効かなくなっていた。こんな風に乱暴したかった訳じゃなかったが、性急にジッパーを下げると猛り狂っている自身を取り出し、何の準備も施さずにいきなり恵史を貫いた。
「いやだあぁぁぁぁっ!」
 二人の他は誰もいない教室に、恵史の絶叫が響き渡った。


 痛みの為意識を失ってしまった恵史を見下ろして、裕は呆然としていた。
 嵐のような行為はそんなに長く続かなかったが、恵史の白い身体は裕がつけた所有の印で斑になっている。噛みついたところには血が滲んでいた。
 優しくしなかった。できなかった。愛を交わす神聖なはずの行為を暴力に変えてしまった。
 こんなことをしでかすほど琢磨に嫉妬したくせに、くちづけさえしていなかった。優しく名前を呼ぶことも愛を囁くこともできなくなってしまった。
 この愛らしい後輩が、こんなことをされた後も自分を慕ってくれるとは、到底思えなかったから。
『俺のモノになってから後悔しても知らないよ』
 琢磨の言葉が甦る。裕は激しく後悔していた。
 裕は意識のない恵史に口唇を寄せた。頬に小さなキスを落とした時、嬉しいと微笑んだ顔が目に浮かぶ。
 涙の味がするくちづけを、何度も何度も飽きることなく繰り返した。きっとこれが最初で最後だから。
「ごめん・・・・」


 恵史の身体をキレイに拭ってから、裕は自分のシャツを着せた。かなりサイズが違うので半そでが七分袖くらいになっていたが、この際仕方なかった。恵史のシャツはビリビリに破いてしまったのだから。
 自分は、多少汗臭かったが体操服を着て、恵史が目覚めるのを待った。
 大声で騒いでいたはずなのに誰にも気付かれなかったのは、裕のクラスが校舎の一番端だった所為だろう。
「う・・・ん・・・」
 恵史の目がゆっくりと開いた。首をゆっくりと巡らせて辺りを見まわす。そして、裕の心配そうな顔を見つけるとフワッと微笑んだ。
「裕先輩・・・」
 自分を陵辱した相手をうっとりと見上げて、恵史は両手を差し伸べた。
「ごめんっ!」
 裕はそう叫ぶと、恵史を置いて逃げ出した。


 逃げ出したのは・・・何から?
 恵史から?
 恵史に囚われてしまった自分の心から?