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 恵史より二つ年上とはいえ、まだ高校生の裕には、恵史のひたむきな想いを受けとめるだけの包容力に欠けていた。
 男同士というだけでも、大変なリスクなのに、末っ子とはいえ恵史は真崎産業の御曹司なのだ。
 この恋は実らない。実るほうがおかしい。それならば、逃げたほうがいい。深く傷つかないうちに・・・・
 裕はそう結論づけた。


 期末テストも済んで、テスト休みを1週間挟んで、今日は登校日だった。テスト結果が発表されるのだが、裕の足取りは重かった。
 恵史は、レイプされたあの日を境に、見事な変身を遂げた。さながら、青虫が蛹にならずにいきなりアゲハ蝶に羽化したかのように、一気に綺麗になったと、もっぱらの評判だった。
 その理由については、あれこれ憶測が乱れ飛んでたようだが、裕は聞かないようにしていたし、真相は誰もわからなかった。
 恵史は写真部にはまだ在籍しているらしい。というのも、気まずさの余り、裕は受験生だというのを理由にクラブには顔を出さなくなっていたし、恵史も裕のクラスに来なくなってしまったから。
 あの日、恵史に着せたシャツはクリーニングされて、机の上に置かれていた。
 そして、最近の恵史は琢磨といるのをよく目撃されていた。
『後悔先に立たずなんて、昔の人はエライよな・・・・』
 裕が悶々としていると、背中を思いきりドヤされた。
「オッス! 熊谷、久しぶりだな」
「中村・・・」
「なんだぁ? シケた面してるじゃん。そんなんじゃ、子猫ちゃんに愛想つかされるぞ」
「俺をからかってるのか? お前こそ、アイツとつきあってるんじゃないの? このところ、キレイになったと評判じゃん。俺、見ちまったんだぜ。教室でキスしてるトコ」
 裕の言葉に、琢磨は目を丸くした。
「カワイイ後輩だから、泣かさないように可愛がってやってくれや」
 早口でそれだけ言うと、裕はその場から逃げ出そうとした。
「待てよ、熊谷。言いたいことはそれだけか? ザケんじゃねぇぞ!」
「中村・・・?」
 今度は裕が目を丸くする番だった。
「あのコと付き合うつもりは全くないってことだな? そういうことなら、俺本気でアプローチかけるぜ。ここんとこ、お前につれなくされて、随分弱気になってるからな。堕とすなら今だって思ってたんだ」
「何言ってんだよ・・・つれなくされてるのは、俺の方じゃんか」
 裕は口唇を噛み締めた。
「抱いたんだろ? 見てりゃわかるよ。子猫ちゃん、一気にキレイになったもんな。好きなヤツと結ばれたんだから、当然かもしれないけどな」
「・・・・・・・・・」
「でも、なんであのコ最近淋しそうな顔してるんだ? あんな顔させてていいのかよ?」
「わかんねぇよ、そんなこと・・・・俺怖いんだ。アイツの想いが・・・受けとめる自信なんてねぇよ・・・」
 裕の言葉に琢磨は絶句した。
「熊谷って・・・・意外と純情だったんだな・・・驚いた・・・」
「純情なヤツがレイプなんかするかよ」
「なっ・・!?」
 吐き捨てるような裕の言葉に、琢磨は完全に凍りついた。
「マジかよ・・・?」
 裕は言葉もなく頷くしかなかった。