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「中村君・・・冗談でもそんなことを大声で叫ばないでください。たまたまお客さんが途切れたからよかったようなものの、立派な営業妨害ですよ」
「ヒドイ・・・雅人さん・・・俺の気持ち知っててそんなイジワル言うんだ?」
 琢磨の言葉に雅人は縋るような視線から目を逸らしながら言った。
「本気なの?」
「本気だよ。でなきゃ、受験生なのにこんなに毎日通い詰めたりしないって」
 その言葉に雅人は大袈裟にため息をついた。
「恵史達に引き摺られてるだけじゃないの? 君には僕みたいなオジサンより、もっとカワイイ女のコの方がお似合いだと思うよ」
 雅人の言葉に、琢磨はテーブルを殴りつけて立ちあがった。
「俺の気持ちが迷惑なら、そう言えばいいんだ! ガキだと思ってテキトーなこと言ってんじゃねぇっ! 心配しなくても、もうつきまとったりしねぇよ!」
 琢磨は泣き出しそうに顔を歪めて、店を飛び出した
「中村君っ!」
 途方にくれる雅人に、成り行きを見守っていた裕が声をかけた。
「あのさぁ・・・マスター。どうせフルならそんな曖昧な言葉じゃなく、キチッとフッてやってくれないかな。ヤツは俺の大事なダチなんだ」
 俯く雅人に恵史が怒鳴った。
「このままでイイ訳ないでしょ! 早く中村先輩を追いかけてよ。叔父さん!」
「み・・店を頼む!」
 いつもおっとりしている甥っ子の剣幕に、雅人はエプロンをつけたまま店を飛び出した。


「待って! 中村君!」
 琢磨が自動改札に定期券を滑り込ませた時に、雅人はようやく追いついた。このまま行かせてしまったりダメだと思った時には大声で引き止めていた。
「雅人さん・・・」
「わ・・・忘れモノがあるんだ・・・だから・・・」
 必死で走ってきたのだろう雅人の額には汗がにじんでいた。そこまでしてくれたのだからと、琢磨はもう一度定期券を自動改札にくぐらせた。
「すいません、わざわざ・・・熊谷に預けといてくれたらよかったのに・・・・」
 失恋が決定的になっているから、顔を見るのが辛くて目を背けながらぶっきらぼうに言った。
「ダメだよ・・・熊谷君になんて預けられない・・・君が僕の気持ち・・・ちゃんと聞いて行ってくれなきゃ・・・」
 その言葉に、琢磨は目を瞠った。
「雅人さん?」
「こんなとこで立ち話もなんだから、もう一度店に戻ってくれないか・・・・」
 雅人は自分よりも10cm程長身の琢磨を見上げた。その顔は走ってきた所為なのか、ピンクに上気していた。


「よかった。間に合ったんですね」
 琢磨と連れ立って雅人が店に戻ると、恵史がホッとしたように破顔した。
「今日はもう店を閉めて帰ってもらっていいから・・・」
 雅人は恵史にそう言って、琢磨を奥のプライベートルームに連れていった。