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「ねぇ、先輩。ゴールデンウィークってヒマですか?」
 写真部の汚い部室で、いつものように裕に貼りついたまま、ニコニコしながら恵史が訊いてきた。
「俺ぁ、デートで忙しい」
 これまたいつものように素っ気無く、裕が答えた。
「そうですか・・・じゃあ、ひとりで行ってもつまらないからやめようかな・・・」
「んー? 何だ?」
「撮影旅行です。一緒に行けたらいいなと思ってたんですけど・・・・」
「撮影旅行だぁ? クソ生意気に、何処に行くつもりだったんだよ?」
「雪解けの北海道のグチャグチャドロドロでも・・・と・・・」
「あー?」
 ズレてるのはわかっていたが、変なことをサラッと言わないで欲しい・・・しかも、極上の笑顔でもって・・・・と裕は眩暈を感じた。
「例えヒマだったとしても、そんなものは撮りたくねぇな・・・」
「じゃあ、先輩は何処なら撮りたいですか?」
「そうだな・・・インドかチベットかな・・・今のところ」
「じゃあ、急いでチケット手配しますから、一緒に行きましょう」
 恵史の目は期待にキラキラ輝いている。
「だぁーっ! なんでそうなる訳? 俺ぁ金もないし、パスポートだって持ってないんだ!」
「それでしたら、インドは夏休みにするとして、国内だと何処がいいですか?」
「沖縄にでも行って、水着のおねいちゃんを撮りたいかな」
 撮れるものならなんでもこいの裕だった。
「沖縄ですね。早速手配してもらってきます」
 そう言いながら、恵史は部室を出ていこうとした。
「待て! 何処へ行く?」
 裕に呼びとめられて、恵史は振りかえった。
「家に電話を掛けに行ってきます。チケットの手配は早い方がいいですから。もしかしたら、間に合わないかもしれませんが」
「何考えてんだっ!? お前はっ! 俺は金がないって言ってるだろうが! 恵んでくれるって言うのかよ、バカにすんなっ!」
 裕の剣幕に驚いた恵史はドアの所で立ち竦んだ。
「あ・・・あの・・僕・・・恵むだなんて・・そんなつもりじゃなくて・・・先輩と一緒に行けたら楽しいかなって・・・そう思って・・・」
 俯いて涙ぐんだ恵史の頭を、裕は大きな手でクシャッとかき回した。
「泣くな。もういいから」
「ごめんなさい・・先輩・・・僕のこと嫌いにならないで・・・」
 裕に抱きついて、恵史は大粒の涙を溢れさせた。自分のしようとしていたことの傲慢さが恥ずかしくて情けなくて、涙は止まらなくなってしまった。
 裕は、いつもニコニコしている恵史の涙に、うろたえてしまった。
「俺も大きな声で怒鳴ったりして、大人気なかったよ。だから泣かないでくれ・・・」
 声を殺して泣く恵史の背中に、オロオロしながら腕を回した裕は、あまりに華奢な身体に驚いた。
『女のコと違って柔らかくないから、ちょっと力入れたら折れそうだな・・・』
 図らずも抱き合うことになってしまった二人を、写真部の面々が嬉々としてカメラに納めていたのを、裕は気付いていなかった。