「だあぁーっ!? なんじゃ、これーっ!」
3年A組の教室に、テレビドラマの有名なセリフのような裕の叫び声が轟き渡った。
裕と恵史が抱き合っている写真が大きく引き伸ばされて、黒板に貼られていたのだ。しかも、ご丁寧にタイトルがつけられていた。
「なんなんだよっ! この『恋人達』ってのはっ!? 犯人はダレだよっ!? 見つけたらタダじゃおかねぇ」
黒板から写真をひっぺがしてビリビリに破くと、裕はドカッと派手な音を立てて、乱暴に席についた。
「事実なのか? それ」
隣の席でニヤニヤしていた中村琢磨が好奇心丸出しで訊いてきた。
「ちょっと怒鳴ったら泣き出したから、慰めてただけだよ。勘弁してくれよ。俺、ノーマルなんだからよ」
「でも、あの子猫ちゃんがそんなに色っぽいとは思わなかったよ。まだまだおこちゃまだと思ってたのにな」
「そう思うんなら、熨斗つけてくれてやるぞ」
苦々しげに裕は言い放った。
「おっ? そうか? 俺のモノになってから後悔しても知らないよ」
「だれが後悔なんてするもんか! いい加減、つきまとわれてうんざりしてるんだ」
「じゃあ、遠慮なく。後で文句言わないでね」
「言わんっ!」
「ゆーたーか先輩っ!」
その日の放課後、いつものように恵史が裕のクラスにやってきた。
「あ、子猫ちゃん、毎日ご苦労だね。今日は何かいいことあったの?」
恵史をゲットする宣言をした中村琢磨は、早速アプローチを開始した。
「わかりますか、中村先輩。とってもいいものもらったんです」
「へぇ、見せてもらってもいいかな?」
「もちろん」
どうぞと言って恵史が生徒手帳から取り出したのは、1枚の写真だった。今朝、黒板に貼ってあったのと同じ構図だったが、恵史の持っているのは、より裕の顔がハッキリと写っているものだった。
「これは・・・・」
「写真部の友達がくれたんです。僕が裕先輩のことを好きなのを知ってて・・・」
はにかんで頬をバラ色に染めた恵史は、ドキッとするほど可愛くて、琢磨はつれない想い人を諦めて本気で恵史をゲットしようかと思った。
「裕みたいなデリカシーのないヤツはやめて、俺とつきあわない?」
「ごめんなさい」
ペコッと頭を下げた恵史に、琢磨は嘆息した。
「即答かい・・・・」
「だって、僕・・・裕先輩が好きなんです・・・」
琢磨の中に芽生えかけた恋心は、育つ前に枯れてしまった。元々、青陵に入学したときから、想い続けている人に恵史は少し似たところがあったので、ちょっかいを出したくなっただけだったから、ダメージはそれほど受けなかった。
「子猫ちゃんの恋が成就するといいね」
琢磨はまるで本当の子猫を撫でるように、恵史の頭を撫でた。
「何ジャレてんだよ? お前ら」
裕が側に来ると、恵史が輝くように微笑った。
「先輩。いいものもらったんです。見てください」
恵史が件の写真を見せると、裕は無言で取り上げ破り捨てた。
「あーっ! 何するんですか! 僕の宝物!」
「気持ち悪いんだよ。こんなの持ってんじゃねぇよ、バカ」
「唯一の先輩の写真だったのにぃ」
「自分で撮ったら? 子猫ちゃん、写真部なんだし」
琢磨の言葉に、涙目になっていた恵史に笑顔が戻った。
「そうですよね。撮影旅行に行かなくても、こんなに素晴らしい被写体があったんだ・・・・ありがとうございます。中村先輩」
はしゃぐ恵史とは対照的に、裕はまたも身体中から力が抜けるのを感じていた。