「その前に、お茶でも飲みませんか? 僕、ご馳走します」
「いいけど・・・お前いい店知ってるのか?」
「この近くで叔父がやってる店があるんです。青陵に入学したら来いって言われてたんですけど、まだ行ったことなくて、先輩と行きたいなと思って・・・【待合室】って喫茶店ですけど、ご存知ですか?」
「あそこって、お前の叔父さんの店なのか?」
青陵の学生なら知らない者はいないというくらい有名な店だ。オーナーは青陵のOBなのだから。
「はい。母方の叔父の店なんです。行かれたことあるんですか?」
「青陵の学生で行ったことのないヤツはいないさ」
裕の言葉に恵史は嬉しそうに微笑った。
「行きましょう。先輩」
「待ってたのよ、裕。希に聞いたわ。気になるコがいるんですって? あら・・・そのコは?」
校門を出たところで雅美が待ち伏せしていた。
「クラブの後輩だよ。テスト前だから勉強教えろって言うから・・・・」
歯切れの悪い裕に、雅美はピーンと来た。
「ははーん。そのコなんだ? 道理でつれないはずだわ。裕ってばゲイに転んじゃったのね。早速みんなに教えてあげなきゃ」
嬉しそうな雅美に恵史が訊いた。
「ゲイってなんですか?」
キョトンとみつめる恵史に、雅美は裕をヒジでこづいた。
「苦労するわね。それともヒギンズ教授を気取ってる? それにしてもアノ熊谷裕が、こんなおこちゃまをねぇ・・・」
「違うっちゅーの! 人の話を聞けっ!」
「お幸せにねー」
怒鳴る裕をものともせず、雅美はヒラヒラと手を振りながら行ってしまった。後には呆然と立ち尽くす裕と、ニコニコしてる恵史、樫女の美人を見るために集まってきたヤジ馬が残された。
【待合室】のドアベルが鳴る。
「こんにちは。雅人叔父さん」
キッチンから顔を出したマスターは、そう言われて改めて良く見ると恵史に面差しが似ているような気がした。
「やあ、恵史。来てくれたんだね」
青年と言うには少しトウが立っているが、整った美貌のマスターは、久しぶりに逢う甥っ子に笑いかけた。
「今日は写真部の先輩もお連れしました。これから図書館で勉強を教わるんです」
「OK、じゃあ何を差し上げようかな?」
「キリマン・・・・」
カウンターの席を勧められて、並んで腰掛けた裕はボソッと答えた。
「じゃあ、僕も先輩と同じものを下さい」
しばらくして、ふたりの前に薫り高い湯気を立てるカップを並べて置いたマスターは、興味深げに裕を覗き込んだ。
「ねぇ、熊谷君。人当たりはいいけど、特定の誰かにこんなに懐くことなんてなかった恵史を、どうやって手懐けたの?」
キリマンを噴き出しかけて、裕はむせかえった。
「ちょっと待ってよ。マスター。俺の方が聞きたいよ、そんなこと。始業式にいきなり抱きつかれてから、付き纏われて弱ってんだからさ」
裕の言葉に、マスターは目を瞠った。