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「ぅ・・ん・・」
 意識が浮上してきて、フレデリックはゆっくりと目を開けた。
(ここは・・・・?)
 思い出そうとするのに、頭が激しく痛んでいる。身じろぎした瞬間全身に激痛が走り、思わず悲鳴を上げそうになったが、夕陽の赤が目に入り息を飲んだ。
(マーシャル?)
 以前にも今と同じように、目覚めた時にマーシャルに抱き締められていたことがあったのを思い出した。
 あの時は驚いたけど、とても嬉しかった。でも・・・・今回は・・・
 ゆうべのことが一気に蘇ってくると、フレデリックの瞳から涙が溢れ出した。
(新しい薬の実験台にされたんだ・・・)
 マーシャルと一つになれたけど、こんなのはあんまりだと、情けなくて涙が止まらなくなった。
(逃げなきゃ・・・・)
 これ以上マーシャルの側にいると辛くなる。身体が軋んだが、フレデリックは持てる魔法力の全てを使って、自分を抱き締めて眠るマーシャルの腕の中から逃れた。


「フレデリックか? 一体どうしたんだ?」
 フレデリックが瞬間移動したのは、マーシャルの叔父で医者のヘンリーのところだった。
「ごめんなさい・・・お願いです・・匿って下さい・・」
 見るからに憔悴しているフレデリックがいきなり飛び込んできたのでヘンリーは驚いたが、黙って招き入れてくれた。
「匿うことにやぶさかでないが、何があったか聞いてもいいか?」
 無理なお願いを聞いてもらうのだから、内緒にする訳にはいかない。フレデリックは覚悟を決めると洗いざらい話した。

「それは・・・」
 全てを聞いたヘンリーはどうリアクションをすればいいのか、困惑した。
「僕はマーシャルのことが好きなのに、変な薬の実験台にするなんて・・ おまけにたくさんイヤらしいことされたり痛いことされたりして悲しかったのに、心のどこかで喜んでる自分がいて、それが悔しい・・・」
 フレデリックの言いたいことは何となくわかる。ヘンリーは複雑な表情になった。
「マーシャルの叔父として、レイプのお詫びをさせてもらうよ。傷の治療もさせてもらうし、匿ってくれと言うなら、フレデリックの気の済むまでウチにはいてくれて構わないけど、それはどうしてなんだい?」
 ヘンリーの問いに、フレデリックはニヤリと笑って答えた。
「責任を取って僕をマーシャルの伴侶にしてもらう為です」
「なっ・・・っ!?」
 ヘンリーは目を白黒させた。
「だって、ずっとずっと昔からマーシャルのこと好きだったから・・・こんなヒドイ目に合わされても好きだから・・・『ナイト』にデビュー前にこんなことされたんだから、絶対に伴侶にしてもらわなきゃ、割に合わないでしょう?」
 ヘンリーはあんぐりと口を開けたまま、決意に燃えるフレデリックを見つめていた。
 マーシャルの父の、年の離れた異母弟であるヘンリーは、マーシャルより10年上なだけの30になったばかりだった。
「薬を盛ってまで抱きたいと思ったのだから、多分マーシャルはフレデリックのことを好きなんだと思うけど、それらしい告白はなかったのか?」
「あったら、こんなに悩まないです・・」
 憮然と頬を膨らませるフレデリックに、ヘンリーは大きなため息をついた。
「男同士だぞ・・・後悔すると思うんだが・・」
「マーシャルは後悔するだろうけど、僕は後悔しない。絶対に僕の伴侶になってもらうんだ。ヘンリーは黙って協力してくれればいいんです」
 フレデリックはビシッと言い切ったが、ヘンリーは頬を引き攣らせた。
「な・・・何かいい考えでもあるのか?」
 改めて訊かれて、フレデリックは診療用のベッドにへたり込んだ。
「ない・・・です・・」
 足元に視線を落とす。しかし、ここで諦める訳にはいかない。
「まずは身体の調子を元に戻してからだ。メシもまだなんだろう?」
 そう問われて、初めてフレデリックは空腹だったことに気づいた。くぅーっとおなかが鳴って、赤面してしまった。ヘンリーはくっくっと笑いをかみ殺した。
「先に診察させてもらえるかな。メシはその後にしよう」
 フレデリックは子どものようにコクンと頷いた。