こんなに満ち足りた想いで目覚めるのは、生まれて初めてかもしれない。
本当は想いが通じ合ってからと思っていたのに、『ナイト』以来避けられてしまって焦った挙句、姑息だったが新薬にかこつけて騙すようにして抱いたフレデリックの身体は想像以上だった。
マーシャルは目を開けたが、腕の中にいるはずの恋人がいないので、驚いて飛び起きた。
「フレッド?」
慌ててあちこち探したが、フレデリックがいついなくなったのか、全然気づかずに寝こけていたことが腹立たしく、マーシャルは舌打ちした。
「寮に戻ったのかな・・・」
分身魔法で寮に行ってみたがフレデリックはまだ戻っていないと言われた。
一日中心当たりを探し回ったが、とうとうフレデリックを見つけ出すことができずに、マーシャルは青ざめた。
「ちょっと擦れて腫れてるけど、切れてはいないようだから、しばらく安静にしていれば大丈夫だ」
死ぬほど恥ずかしかったが、ヘンリーは医者だからと覚悟を決めて、フレデリックは診察を受けた。でも、心配していたほど酷くなくて、ホッと安心した。
「マーシャルは本当に大事に抱いたんだと思うよ。大丈夫、フレデリック。君は愛されている。自信を持ちなさい」
ヘンリーに太鼓判を押されて、フレデリックは嬉しくて涙が出てきた。
「ありがと・・・ございます・・・」
泣き顔を見られたくなくて、フレデリックはそのまま枕に顔を押し当てた。
「全く・・・いつもつんと澄ましてるくせに、意外と中身は熱い男だったんだな」
メソメソ泣いているフレデリックの髪を撫でながらヘンリーは、綺麗だとばかり思っていた甥っ子が意外と骨太だったことに、驚きを隠せなかった。
3日ほど休んでいたらしいが、その後フレデリックはちゃんと学校に出ているのに、寮には戻っていないらしい。学校で待ち伏せして後をつけたかったが、仕事を休む訳にはいかない。
「一体ドコにいるんだ?」
マーシャルは半泣きだった。
お世継ぎのグレアムに尋ねても、ケンカをしているのだと思われていて、反対に原因は何かと訊かれる有様で、答えに詰まってしまった。
レオンはアーサーに託されているらしいが、手のかからない利発な子どもなので、アーサーと同室のレックスと仲良くやっているらしい。
いよいよ嫌われたのだと思うと仕事をやる気も食欲もなくなり、ロバートにまで心配をかける羽目に陥った。
「フレデリック。そろそろ甥っ子を許してやってくれないかな」
ヘンリーの元にもロバートからマーシャルの様子を知らせてきたようだ。
「でも、まだ作戦立ててないもん・・」
口唇を尖らせるフレデリックに、ヘンリーは苦笑した。
「大丈夫。作戦なんか立てなくても、マーシャルの前に立つだけで全て上手くいくはずだ」
「そうかな・・」
ヘンリーは確信しているようだが、フレデリックはいまいち自信がなかった。絶対に伴侶にしてもらうんだ、とは思っているけれども・・・
「先に、好きだって言ってくれたら僕だって・・・」
弱気になりかけているフレデリックに、ヘンリーは一つアドバイスをした。
「ここで悩んでいても答えは出ないと思うが?」
「ヘンリー・・・」
フレデリックは覚悟を決めたように顔を上げると、じっとヘンリーを見つめた。
「利口な君のことだ。このままぐずぐずしていてもダメなことは、もうわかってるんだろう?」
迷うフレデリックの背中を押すようなヘンリーの言葉に頷くと、ブルーの小鳥に変化してマーシャルの元へと瞬間移動した。