13

 開いていた窓から飛び込むと、マーシャルはベッドに突っ伏していた。 髪をくちばしでつまんで引っ張ると、ゆっくりと顔を上げた。
「やぁ・・・可愛い小鳥さん。ようこそ」
 マーシャルは笑みを見せるけど、小鳥がフレデリックだと気づいていないようだ。
「何か僕に用かい?」
 フレデリックは差し出されたマーシャルの手のひらの上に乗った。
 マーシャルはじっと小鳥を見ていたが、淋しげに微笑むとぽつりぽつりと話し始めた。
「僕はね・・・このまま死ぬのを待っているんだ・・」
 フレデリックはそれを聞いてギョッとした。抗議の意味を込めて、くちばしで人差し指をつついた。
「心配してくれるのかい? ありがとう・・でも、僕はもうダメなんだ・・・愛する人に嫌われてしまったんだ・・・」
 フレデリックは小首をかしげた。
「悪いのは僕だったんだ。焦って、何かを間違えてしまったんだよ・・・」
 フレデリックは黙ってマーシャルの告白を聞いていた。
「ずっと好きだったんだ。でもまだフレッドは子どもだったから、手を出せずに我慢してた。我慢できると思ってたんだ・・・」
 小鳥とは言え、じっと見つめられていると恥ずかしくなって、マーシャルは視線をそらせた。
「フレッドが僕に好意を持ってくれているのはわかってたよ。でも、それが僕と同じ気持ちじゃないってこともわかってた。僕は[優しい同室のお兄さん]として振舞っていたからね。だからなんとかしたくて、『ナイト』に出て嫉妬心を煽ろうなんて思ったりしたのが間違いだったのかな・・・」
 フレデリックは驚いた。マーシャルも自分と同じ気持ちでいたなんて、『ナイト』に出たのは、伴侶を見つけるためのものではなかったということだったなんて、思ってもいなかった。てっきり伴侶を見つけてきたものだと思っていたのに。
「でも、どうしてフレッドは僕を避けるようになってしまったんだろう。いくら考えてもわからなかったんだ・・・」
 マーシャルは悔しそうに口唇をかみ締めた。
 フレデリックはマーシャルの手のひらから降りると、頬に擦り寄って行った。
「慰めてくれるんだね。ありがとう・・でも、もういいんだ・・」
 全てを諦めきったようなマーシャルの言葉を聞いて、本当にこのまま弱って死ぬのを待ってるのだとわかり、フレデリックは猛烈に腹が立ってきた。変化を解くと、驚いて飛び起きたマーシャルの頬を張り飛ばした。
「フ・・・フレッド?」
 怒りも度を過ぎると涙が溢れてくるのだと、フレデリックは気づいた。
「冗談じゃない! あなたに死なれたら僕はこれからどう生きていけばいいの!?」
「え・・?」
 ボロボロ涙を溢れさせながら怒鳴るフレデリックに、何が何やら理解できていないマーシャルは、ベッドの上に呆然と座り込んでいた。
「どうして僕の気持ちを確認する前に諦めてしまうの!? 僕がマーシャルと同じ気持ちでいるなんて、これっぽっちも思ってなかったの!?」
「フ・・・フレッド・・・・」
 普段大人しいフレデリックの剣幕に、マーシャルはポカンと口を開けてフリーズしてしまった。
「僕の気持ちがわかってるなんて、うそばっかり! 全然何もわかってないくせに、僕を残して勝手に死んだりしないでよっ!」
「フレッド・・・」
 マーシャルは信じられない展開に、夢でも見ているのだろうかと、思わず、今張り飛ばされたばかりでジンジン痛む方とは反対の自分の頬を抓ってみた。
「僕が来年『ナイト』にデビューして、伴侶を見つけてもいいんだね!? ホントに僕がどんな想いで・・・」
 それきり言葉に詰まったフレデリックはガーネット色の瞳をまん丸に見開いているマーシャルに背を向けると、部屋から飛び出した。
「フレッド!」
 フレデリックが飛び出していって、ようやく我に返ったマーシャルはすぐに後を追った。

「待って、フレッド!」
 怒りで目が眩んで、瞬間移動で逃げることまで思い至らなかったので、あっさりとマーシャルに追いつかれたフレデリックは、思いがけない力で腕を掴まれて、驚いた。
「行かないで・・・お願いだから・・・」
 泣き出しそうな顔でマーシャルは呟くと、そのままフレデリックを強く抱き締めた。