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「フレッド・・? 返事をくれないの?」
 急に顔を強張らせてフレデリックが俯いてしまったので、マーシャルは不安になった。
「あの・・・内緒にしちゃいけない?」
 フレデリックの返事は、プロポーズを受けるというものではなかった。
「それ・・は・・・」
 マーシャルの眉間にしわが寄って、みるみる悲しそうな表情になったので、フレデリックは慌てて訂正した。
「違うの。マーシャルとのことが恥ずかしいとか、そんなのじゃなくて・・・・その・・」
 どうも拒絶というのではないらしい。マーシャルは首をかしげた。
「グレアムが・・・お世継ぎより先に伴侶を得たって、よくないような気がするから・・・・それに・・・」
「グレアムを差し置いて、というのはわかった。それに・・?」
 マーシャルのガーネットの瞳に見つめられて、フレデリックの琥珀の瞳が揺れた。
「それに・・・・僕達・・・ウィザード同士なのに・・・いいのかな・・・?」
 フレデリックの心配はもっともなことで、マーシャルもそのことについては気にならない訳じゃなかった。
「僕の母達は紹介しろって言ってたくらいだから、気にしなくてもいいんじゃないかな・・ 『ナイト』に出てこない人もいるし、伴侶については個人の責任に任されてるんだと思う・・・」
 マーシャルの言葉にフレデリックは頷いた。
「そういえば、ヘンリーも困惑はしてたけど、反対はしなかった・・・」
「へ・・・ヘンリー!?」
 思ってもいなかった人物の名前を挙げられて、マーシャルの声は裏返ってしまった。
「どうしてヘンリー?」
 マーシャルの頭上には疑問符が乱舞している。フレデリックはプッと吹き出した。
「ずっとヘンリーのとこに匿ってもらってて、相談にも乗ってもらってたんだ」
 その言葉を聞いた瞬間、マーシャルは叔父に対して殺意が湧いてくるのを感じていた。


「冷却期間を置いたおかげで上手くいったのだから感謝されこそすれ、恨みを抱くというのはスジ違いじゃないか?」
 フレデリックを抱いたまま瞬間移動して、いきなり恨みつらみの罵詈雑言を浴びせたマーシャルに、ヘンリーは顔色も変えずに言った。
「想いが通じ合ったからそこまで大きな態度に出るんだろうけど、お前はいたいけな子どもに薬を使ってレイプしたということを忘れていないか?」
 容赦なく畳み掛けられて、マーシャルは顔色を失っていった。
「ヘンリー・・・それくらいにしてあげてよ・・」
 フレデリックの援護がなかったら、ヘンリーはマーシャルが立ち直れなくなるくらい、叩きのめしたに違いない。
 思わぬ返り討ちにあって、すっかりしょげてしまったマーシャルの肩をポンと叩くと、ヘンリーは苦笑を浮かべた。
「いつもツンと澄ましていたお前の中に、こんなに熱いものがあったなんて、知らなかったよ。手放しで賛成はしかねるが、決めたからには幸せになりなさい」
 そう言ってヘンリーはフレデリックの頭を撫でた。
「叔父さん・・・」
「ヘンリー・・・・」
 マーシャルの綺麗な顔が泣き笑いに歪んだ。