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 フレデリックの熱は朝には下がるけれど夕方にはまた上がるということを繰り返した。
 ナイトの期間は学校や仕事も休みとなるため、マーシャルはずっとつきっきりでフレデリックの看病をした。
「単なる風邪じゃないのかもしれない。あのヤブ医者、誤診してるんじゃないだろうね・・・」
「そ・・・そんなこと・・ないと思うけど・・」
 魔法で病気を装ってるだけに、フレデリックはヤブ呼ばわりされた医者のヘンリーに申し訳なく、心の中で手を合わせた。
 朝になったらベッドに起き上がれるようになるのに、夜が近づくと熱が上がって食事も喉を通らなくなる。そんなウソを繰り返すうちに身体が悲鳴を上げたのか、最後の一日になって、フレデリックは本当に熱を出してしまった。
 朝になっても熱が下がらなくなったので、マーシャルは驚いた。グレアムの側近候補に上がっていただけに、マーシャルの魔法力はフレデリックに引けを取らない。つまり、フレデリックのウソは最初からバレていたのだ。
「フレッド・・・ロバートの薬を貰ってきたから、少しこれを食べてから飲むといい」
 マーシャルは魔法学校を卒業すると、王付きの薬師、ロバートの下に修行に出ることになっている。
 フレデリックがウソの熱を出しているときには、薬でなくお菓子とスパイスを粉にしたものを飲ませていたのだが、本当に熱を出したのでロバートのところでわざわざ調合してもらってきたのだった。
 熱に浮かされて潤んだ目で見上げるフレデリックに、マーシャルは消化のよいスープを作った。
 スプーンを口元に差し出すと、フレデリックは雛鳥よろしく口を開けた。
「おいしい・・」
「そう、よかった。食欲があるなら、回復も早いからね」
 フレデリックは、ボウル1杯のスープを平らげ、ロバートの薬を飲んで横になった。
「フレッド・・・僕は期待してもいいのかな・・・」
 夢うつつにマーシャルの言葉を聞いていたが、フレデリックには意味がわからなかったので、返事できなかった。

「寒い・・・」
 夜中にフレデリックは寒さで目が覚めた。
「フレッド・・・どうした?」
 フレデリックが呟いた言葉を聞き逃さなかったマーシャルは、ベッドからおりてきた。
「寒いよ・・・」
 フレデリックは歯の根が合わないのか、ガタガタ震えているので、マーシャルは一瞬苦しそうに眉を寄せたが、フレデリックのベッドに入ってきた。
「マーシャル・・・?」
 震える身体を抱き寄せられると、フレデリックの震えはひどくなった。
「少し窮屈だろうけどガマンして・・こうすればあったかいだろ?」
 マーシャルの声が間近に響いて、フレデリックは頷くと、マーシャルの胸に頬を寄せた。
 夢ならどうか覚めないでと思いながら。

 本当なら、マーシャル程の魔法使いだと指を一振りするだけで部屋ごと暖かくできる。
 しかし、フレデリックを堂々と抱き締められるのならと、姑息ではあるが原始的な方法で暖めることにした。
 こんな風にフレデリックを想うようになるとは、出会った時には想像もしていなかった。
 どちらかと言えば一人でいるのが好きだった自分が、栗色のふわふわした髪にブラウンの瞳が可愛い下級生と同室になって、面倒を見ることが決まった時には、はっきり言ってわずらわしいとさえ思っていたのに。
 フレデリックといることは、最初から負担には感じなかった。1を聞いて10理解する聡明な子どもだったので、手を煩わされることがなかったからだ。
 マーシャルを世話していた上級生も同じように思っていたのかもしれない。世話は手抜きされがちだったが、マーシャルには返ってそれが居心地よかったのだった。