「マーシャル・・・好きだよ・・」
フレデリックの告白は、薬を飲んで眠り続けるマーシャルに聞こえることはなかった。
翌年の『ナイト』はロバートが骨折したため、マーシャルが介護を申し出て欠席することになった。
その翌年には『ナイト』の前日に怪我をした小鳥が飛び込んできたので、欠席して手当てをしてやった。
「ねぇ・・・本当に『ナイト』に出なくてもいいの?」
翼が折れた小鳥の手当てをするマーシャルの側で手元を覗きながら、フレデリックは訊いた。
「いいんだよ。ウィッチにもそういう人がいるって聞いてるし・・」
「ふぅん・・・そうなんだ・・・」
気のないような返事をしながらも、フレデリックは来年こそマーシャルが『ナイト』に行くような気がしてならなかった。
翌年。二十歳になったマーシャルは、フレデリックの気持ちを知ってか知らずか『ナイト』にデビューした。
しかし、伴侶を見つける気が皆無なマーシャルは、母親であるウィッチのキャサリンとその双子の妹のキャロラインの2人と話をすることに終始していた。
「綺麗な赤ん坊だったけど、こんな美形に成長するなんて・・・」
叔母のキャロラインが感慨深げにため息をついた。
「本当にわが息子ながら、腹立たしいくらい綺麗ね」
実年齢より遥かに若く見える母は口唇を尖らせた。
「お言葉ですが、私はお2人に瓜二つですが・・」
マーシャルは半ば呆れながら二人のウィッチに言った。
そう、マーシャルの母姉妹はカーネリアンの美人ウィッチとして誉れ高かった。
「私たちが妬んでるのは美貌じゃなくて、貴方の肌よ」
若く見えるとはいうものの、マーシャルと比べるとやはり肌のハリは格段に違っている。キャサリンはマーシャルの頬を両手でつまんで引き伸ばした。
「痛たたたたたっ! 何するんですかっ!?」
19年ぶりに逢った息子に対する仕打ちに、マーシャルは涙目で睨んだ。
「愛情表現よ」
はたから見るとマーシャルの姉にしか見えない瓜二つの母は、ウインクとともにマーシャルを解放した。
「それにしても、どうして今まで出てこなかったの? 16になれば逢えると思って楽しみにしてたのよ」
叔母に責められて、マーシャルは苦笑を浮かべた。
「申し訳ありません。ウィッチに伴侶を求める気はありませんし、想い人が可愛く引き止めてくれたので、つい」
その言葉に2人のウィッチは目を丸くした。
「マーシャル・・・要するに、貴方の伴侶は”可愛い”ウィザードってことなのかしら?」
母の言葉にマーシャルは悪びれずに頷いた。
「まだ伴侶にはしてもらってませんが、近いうちに必ず」
母譲りの美貌でマーシャルはニヤリと笑った。
「あらあら。じゃあ、来年の『ナイト』では紹介してもらえるのかしら?」
叔母の言葉にもマーシャルは意味深な笑みで答えた。