フレデリックがウソの発熱で引き止めた翌年の『ナイト』で、マーシャルが発熱したのはウソだった。確かに新薬の調合実験で疲れてはいたが、発熱するほどではなかった。
しかし『ナイト』が近づくにつれて元気がなくなっていくフレデリックを見ていると、期待してもいいのかと嬉しくなって、姑息だったが一芝居うったのだった。
小さい頃から世話をしてきたフレデリックが心配して、看病してくれるのも感慨深いものがあった。
ロバートが骨折したのと怪我をした小鳥が飛び込んできたのは全く予期せぬ偶然だったので、ありがたく利用させてもらった。
そして今年、初めて『ナイト』に出ることにしたのは、フレデリックが少しでも嫉妬してくれたらいいなと思ったからだ。
はたして。
マーシャルが『ナイト』に参加してからというもの、フレデリックの機嫌は底辺を這いずり回っていた。
そうは言ってもはたから見ている分にはわからなかっただろう。
フレデリックは15になっていたが、世継ぎであるグレアムの、冷静沈着な補佐官として活躍していたので、不機嫌を人に悟られるようなヘマはしなかった。
「これは・・・・読み間違えたということかな・・・」
マーシャルが『ナイト』から戻って以来、フレデリックに避けられまくっていた。
『ナイト』に出て嫉妬心を煽ろうとしたことが、逆効果になってしまったということだろう。
「嫌われたかな・・・」
口に出すと、流石に落ち込んでしまった。
マーシャルが何か言いたげにしているのはわかっている。しかし、フレデリックはその言葉を聞くのが怖くて、逃げ回っていた。
(伴侶を見つけたなんて・・・そんなこと聞きたくない・・・)
ウツウツとそんなことを考えていたら、グレアムが眉を寄せて顔を覗き込んでいた。
「腹でも痛いのか? 最近ずっとしかめっ面じゃないか」
誰にも気取られないように注意を払っていたのに、こんなに近寄られているのに気づかないほどボケッとしていたのかと思うと、フレデリックは情けなくて口唇をかみ締めた。
「悩み事か? 俺達じゃ相談相手にならない? やっぱ、マーシャルじゃないと頼りにならないか?」
アーネストもグレアムの背後から顔を覗かせた。
「いや・・少し考え事をしてて・・・・心配かけてゴメン・・・でも大丈夫だから・・」
グレアム達が頼りにならない訳じゃないけれど、来年には『ナイト』にデビューなのに、ウィザードのマーシャルが好きだなんて相談はできない。
それに、マーシャルのことで悩んでいるのに、マーシャルを頼りになんてできるはずもない。
フレデリックは出口のない迷路で迷子になったように心細く思っていた。
来年『ナイト』に出たら。
今はマーシャルが好きだから、ウィッチには興味はないけれど、もしかしたら伴侶にと思えるような人と出逢えるかもしれないし・・・
フレデリックは「if」ばかり考え、ぐるぐるしていた。
「あれ・・? ねぇ、フレディ・・小鳥が・・」
夕陽色のカナリアが窓辺に止まっているのに、レオンが気づいた。
「マーシャル?」
『いきなりでごめん。フレッドに協力してほしいことがあるんだ。新しい薬の効き目を試したいんだよ』
そんなことを言われては断る訳にもいかず、気が進まなかったがフレデリックは頷くとマーシャルのところへ瞬間移動した。