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「あれ・・・あのコは・・」
 垣内陽登海(かきうちひとみ)は車道を挟んで向こう側の歩道を歩く青年に目を留めた。
 あの金色にブリーチされた髪は忘れたくても忘れられない。捜査一課にその人ありと恐れられている自分に向かって、うすらトンマだのバカだの暴言を吐きまくった命知らずだったのだから。
「なんだ・・・もう彼氏ができたのか・・・」
 『2丁目』に恋人探しに来ていただろう名前も知らないその青年は、見るからに女にモテそうな青年と並んで歩いていた。一緒に暮らしているのか、買出しに行ったようで、二人とも両手にスーパーの袋を提げていた。
 齢30にしてまだ独身の垣内だったが、職業柄結婚に二の足を踏まれがちなだけで、決して女性にモテない訳じゃない。
 なのにどうしてだか、自分の不用意な発言で傷ついたような顔をしていたその金髪の青年のことは気になっていた。
「垣内さん。坂本が現れました」
 去年から組んで仕事をしている後輩が報告してきた。張り込みの甲斐あって、容疑者が現れたようだ。
「よし、行くぞ」
 垣内は瞬時に仕事モードに切り替わった。


「しかし、たくさん買ったよな。これだけありゃ、ダレも文句は言わないだろう」
「多分な。足りなきゃ、今度は1年に買出しに行かせりゃイイんだよ」
 ブツブツ文句を言う友人に望は苦笑した。
「あれ、今度はじゃんけんしないのか?」
「しねぇよ!」
 「遊々倶楽部」の次回の企画のための話し合いのお菓子や飲み物の買出しを、じゃんけんで負けた者が行けばいいと言い出したのは、今ブツブツ文句を言っている高倉一矢(たかくらいっし)だった。
 そのとばっちりを食って、つき合わされた望は、こういう買出しとかの雑用は嫌いではなかったことが一矢にとっては救いだったということに気づいていないようで、買出しの間中ブツブツ言っていた。
「いい人ぶって後輩を気遣ったつもりだろうけど、お前って墓穴掘るタイプだよな。意外と不器用なのな」
「うっせぇよ」
 笑う望に一矢は心底イヤそうな顔をした。そんな風にジャレあう二人を見ている目があったことには気づくはずもなく。


 寺の次男坊の望は、併設されている幼稚園でバイトに励んでいた。
 僧侶になって寺を継ぐのは兄に任せて、見かけによらず子ども好きな望は、幼稚園の先生になるために、バイトを兼ねて今から実地で勉強しているのだった。
 普段はプリント類の印刷や掃除など、雑用をやっていたが、今日は「お泊り」の日で、園内は緊張感に満ちていた。
「ノンくん、一人気になるコがいるから、ちょっと注意しててね」
 園長である母親が言うには、一人やんちゃなコがいて、脱走の危険性があるということだった。


「あっ、海斗クンが!」
 案の定、やんちゃ坊主は脱走したようで、園庭を駆けていく影が見えた。
「俺が捕まえてくるから、みんなは他のコ達を見てて」
「ノンくん、お願いね」
「ラジャ」
 望は海斗を追いかけて走り出した。