「いた」
望は10分も走らずに、とぼとぼと歩いている海斗を発見した。
「海斗くん。見ぃつけた」
後ろから声をかけられて、驚いた海斗は脱兎のごとく逃げ出した。
「あ、待て!」
捕まえるのは訳なかった。
「やだやだやだ! 帰るんだぁ! ママー!」
やんちゃ坊主は、ママが恋しかったようで、望に抱きかかえられると泣いて暴れだした。
「明日になったらママはお迎えに来てくれるよ。みんなが待ってるから園に帰ろう?」
望が優しく言っても海斗は泣き喚くばかりだった。
「あれは・・?」
ようやく事件がひとつ解決した垣内は、くたびれた身体を引きずって我が家に戻る途中だった。
気になっていた金髪の青年が泣き喚く子どもを抱えているのに気づいた。
「ママー! ママー!」
見るからに子どもはイヤがっていた。
「誘拐か・・?」
彼が抱えているのは小さな男の子で、そういう性癖のヤツもいるということは聞いたことがある。垣内は二人に向かって走り出していた。
「そのコを離すんだ!」
トラウマの原因になった男が今また目の前で怒鳴っている。望は自分の目を疑った。
「はぁ?」
園に連れ戻すために、今の望は泣き喚く海斗をなだめるのに精一杯で、絡んでくる男に構ってる暇はない。望は無視して通り過ぎることにした。
「待て!」
いきなり腕を掴まれると立ち止まらない訳にはいかず、望は男を睨み上げた。
「何の用? 俺、急いでんだけど」
海斗は見知らぬ大男の出現に驚いて、涙も止まったようだ。大人しく望にしがみついている。
「そのコは君の子どもか?」
男に訊かれて望はポカンと口を開けた。
「何言ってんの、アンタ。俺、ハタチになったばかりだぜ。こんなデカイ子どもがいてたまるかよ」
「そうか、じゃあちょっとソコまで来て話を聞かせてもらおうか」
有無を言わさず、男は望の腕を掴んだままどこかへ連れて行こうとする。
「冗談! 俺急いでるんだってば!」
慌てる望にただならぬ雰囲気を感じ取った海斗は怖がってまた泣き出した。
「ま、待てよ。冗談じゃねぇ、アンタ誰なんだよ。一体俺をドコへ連れてこうってんだよ!?」
体格の相違は如何ともし難く、望は海斗を抱いたまま、その男に近くの交番まで引きずられていった。