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「申し訳ない!」
 垣内と名乗った刑事は30分ばかりの事情聴取の後真実がわかると、机に頭をこすりつけんばかりに頭を下げた。
「わかりゃイイんだけどね」
 海斗は泣き疲れて眠ってしまった。望はぷくぷくした頬に残る涙の跡にキスを落とした。
「可哀想に・・アンタの剣幕に怯えまくってたじゃん。今夜お泊りなのに夜泣きしたらどうしてくれる?」
「すまん・・言い訳のしようもない・・・」
 垣内は大きな身体を縮こまらせて、気の毒なくらいしょげている。望は意趣返しにちょっとイヤミを言いたくなった。
「どうせ、俺の見てくれだけで、ショタコンの誘拐犯だと思ったんだろ? アンタら警察の常識では、ホモはみんな犯罪者な訳?」
 望の容赦ない指摘に垣内は見事に青ざめた。交番勤務の警官は、どう取り成したらいいのか、おろおろしているだけだった。
「もう帰っていいよね」
「あ・・あぁ・・ 車で送るからちょっと待って・・・」
「いらないよ」
 垣内の言葉を遮って、望は海斗を抱っこしたまま立ち上がった。
「しかし子どもが・・・」
「実を言うと送ってくれたらありがたいけど、俺はもうこれ以上アンタと一緒にいたくないんだ。さよなら」
 顔色を無くして呆然としている垣内を置き去りにして、望は海斗をおんぶして交番を出て行った。


 垣内は自己嫌悪で吐き気がしていた。職業柄、人は見かけによらないということは、身に染みてわかっているはずなのに、どうしてあの青年、望には一度ならず二度までも酷い仕打ちをしまったのだろう。
「傷つけちまったよな・・・・」
 一緒にいたくないとまで言われてしまった。
職業柄、毒虫のように嫌われるのには慣れっこになっているはずなのに、望のその一言は流石に堪えた。垣内は大きなため息をついた。
 どうしたら許してもらえるだろうか。
 あの調子では、たとえ逢ったとしても口もきいてもらえないのは、火を見るより明らかだ。
 垣内は頭を抱えた。


「悪いね。休みなのに無理言っちゃってさ」
 幼稚園の事務にコンピューターを導入することにして業者に頼もうとしていたところ、「遊々倶楽部」で一緒の同級生、安西秀悟(あんざいしゅうご)が無料で引き受けてくれたうえ、土曜日だというのにわざわざ出てきてくれたのだった。
「何、今のところ趣味でやっていることだから、そんなに恐縮しないでくれ。いずれ会社を立ち上げるつもりにはしてるんだけど、まだ俺の目に適うメンバーが集まらなくてね」
「あ、やっぱ会社勤めするつもりないんだ?」
 見てくれがバリバリ『ホスト』な秀悟は、卒業したらそのままホストになるのではともっぱらの噂だったが、自分で会社を設立するつもりだったとは知らなかった。
「俺が会社勤めをする姿なんて、想像つかないだろ?」
 望がコックリ頷くと、秀悟は口唇の端だけを持ち上げて笑った。
「俺自身も想像つかないんだ」
「会社ってまさか、ホストクラブじゃないよな?」
 望の問いに秀悟は眉をひそめた。
「あのね。今から俺は何しに行くのかな? 保母さん相手に営業しろってなら帰らせてもらうよ」
 笑顔なのに目は笑っていない。秀悟の機嫌を損ねてはいけないと、望は謝った。
「冗談だよ。ごめんごめん。愛してるから許して、秀悟」
 首をすくめて両手を胸の前で組んで上目遣いで媚びる真似をした望に秀悟は苦笑した。