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「愛してる、だと? この間の男とは別人じゃないか・・・・」
 なんというタイミングなのか、たまたま通りかかった垣内は、その部分だけを聞いてしまった。
しかも、望と一緒にいるのは前に一緒にいた男とは別人だ。見るたびに望は違う恋人といる。垣内は関係ないのになんだか腹が立ってきた。
「よりによって、あんなホストと・・・・」
 垣内は先日反省したこともコロッと忘れて、また見た目で人を判断していた。
「垣内さん。どうかしたんですか? なんか顔が怖いです・・・」
 後輩に指摘されて、垣内は両手で顔をパンパンと叩いた。
「ちょっと考え事してただけだ」
 いつものようにニコリともしないで答えた垣内に、後輩の井上は目を丸くした。
「垣内さんが考え事なんて、珍しいですね。考えるより先に行動の人だと思ってました」
 そんな風に思われていたとは知らなかった。垣内は『それは、ガキということか・・』と愕然となった。


「あれは・・・・」
 望と買出しをしていた青年が女の子と腕を組んで歩いているのに気づいた。職業柄、垣内は一度見た顔は忘れなかった。
(捨てられたのか・・)
 それなら先日ホストのような男と一緒にいた理由も納得できる。しかし、フラレてヤケになったからといって金で男を買うなんてと、垣内は苦々しく思った。
 そんなことを思いながら聞き込みをしていると、当の望が一人で歩いているのに出くわした。垣内は瞬間的に望に向かって走り出していた。


「君っ!」
 二度と逢いたくないと思っていた男がこっちに向かって突進してくる。望は反射的にきびすを返して逃げ出していた。
「待てっ! 待つんだ!」
「ヤだよっ! 一体何だってんだよっ!?」
 何も悪いことはしていないのに、どうして刑事に追いかけられるのかわからないまま、望は必死で走った。
 しかし、刑事の脚にはかなわない。望はあっさりと捕まってしまった。


「君はもっと自分を大切にしなきゃダメだ!」
 望の両肩を掴んで、いきなり説教を始めた垣内に、望は訳がわからずにポカンと口を開けた。
「はぁ?」
「恋人に捨てられたからといって金で男を買うようなマネをして、恥ずかしいとは思わないのか?」
「アンタ、何言ってんの?」
 望は本当に訳がわからなかった。もしかしたら、先日のイヤミに対する嫌がらせなのかと、訝しく思って垣内を睨んだ。
「ホストとベタベタしながら歩いてたじゃないか。常にオトコがいないと満足できない身体なのか?」
 そう言われて、望の中で何かが弾けた。
「なんで・・・・」
 望はそう言うと口唇を噛み締めて俯いた。
「なんでって聞きたいのはこっちの方だ。身体だけの関係なんて虚しいだけじゃないか。ちゃんと心から愛し合える恋人はきっと見つかる。自分を粗末にするのはやめるんだ」
 垣内は思い込みの激しいタイプだった。
「アンタ・・・サイテーだな・・・・」
 俯いたままの望が言った。