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「なんだって?」
 聞き取れずに垣内が問い返すと、望は弾かれたように顔を上げた。
「俺に友達がいちゃダメだってのか? ホモがオトコと歩いてたら、みんな身体の関係があるってのか? 冗談じゃねぇ! バカにするのもいい加減にしろよ! 俺が一体ナニしたってんだよ! 俺に何の恨みがあるってんだ!? どうしてアンタは・・・・」
 望の剣幕に、垣内はたじろいだ。
 困ったような情けない顔の垣内が滲んで見える。
「な・・・泣くな・・・」
 うろたえたように上ずった垣内の言葉に、望は自分がボロボロ涙をこぼしているのに気づいた。
「あ・・アンタの所為じゃないか。離せよ・・・・」
 肩に食い込む垣内の指が痛い。望は逃れようとしたが、急に垣内は望の腕を掴むと、人目を避けるように狭い路地裏に連れ込んだ。


「なっ・・!?」
 いきなり広く逞しい胸にすっぽりと抱き込まれて、望はイヤイヤするように首を振った。
「すまん・・泣かせたい訳じゃなかった・・」
「もうヤだ・・アンタなんかキライだ・・離せよ・・・・」
 そう言って顔を上げると、思いつめたように眉を顰めた垣内の顔が間近にあって、望は反射的に目を閉じていた。
「――――――!?」
 口唇に触れた熱くやわらかい感触は紛れもなく垣内の口唇で、望はびっくりして目を見開いた。ショックで涙は完全に止まった。
「なっ・・なっ・・なんで・・?」
「キライだなんて言わないでくれ・・・」
 低くハスキーな声で囁かれて、垣内の両腕はさらに力がこもった。望はきつく抱き締められて、急に恐ろしくなった。
「やっ・・」
 逃げ出そうと身体をよじると、腰の辺りに堅いモノが当たって、望はギョッと身体を強張らせた。
「あ・・・アンタ・・」
 それは紛れもなく垣内の欲望の権化で、望は思わず垣内を突き飛ばし、一目散に逃げ出した。


「まっ・・待ってくれっ!」
 逃げて行く望を追いかけようにも、股間が突っ張ったままで人前に飛び出して行く訳にもいかず、垣内は呆然と見送ることしかできなかった。
「・・・・・どうすればいいんだ・・」
 思わずその場にへたり込みそうになった時、胸の携帯が鳴った。
『ドコにいるんすか? 聞き込み終わりましたけど・・・』
 後輩の井上の暢気な声が聞こえると、垣内の股間の強張りは解けた。



「どうしたんすか、最近ヘンですよ」
「やっぱ、そう思うか・・・・」
 井上の言うことはもっともだと、自分でも自覚はある。しかし、考えることが苦手な垣内は混乱しているだけだった。
「恋でもしてるんすか?」
「・・は?」
 ポカンと口を開けた垣内は、「渋ガキ」の別名は嘘なのかと思われるほど、呆けた顔で井上を見た。
「自覚なかったんですか? 考えるより先に身体が動く人が、難しい顔で考え込んでは赤くなったり青くなったりしてるんですから、恋以外の何物でもないでしょう? まさか、初恋だなんて言わないでしょうね・・・」
 井上は呆れたように言い放った。