7

『なんで、なんで、なんで!?』
 望は全速力で走りながら、頭の中は疑問符が乱舞していた。
『何考えてんだよ・・・?』
 家に帰り着いて、ご飯を食べて、風呂に入って、ベッドに横になった頃には少し冷静に考えられるようになった。
「初めてゲイの男見たからって、意識しすぎだっての・・・・」
 垣内が途惑っているのはわかる。でも、その苛立ちをぶつけられても困る。
「キスなんかするか、フツー」
『ちゃんと心から愛し合える恋人はきっと見つかる』
 垣内は確かにそう言った。
「ばかやろー・・・じゃあ、何で八つ当たりでキスなんかしたんだよ・・・」
 ただ口唇を押し付けるだけの不器用なキスだった。だけど、触れた口唇の熱さは・・・
 望は垣内の熱が移ったかのように感じる口唇を指でなぞった。



『恋・・・』
 垣内は混乱していた。初めて逢った時から
何かと気になる存在だったが、まさか恋をしているなんてありえないことだった。
 自分も彼も男なんだから。
 しかし、泣かれて思わずキスしてしまったのは何故だろう。垣内は無意識のうちに口唇を指でたどっていた。

「井上。最近の垣内は一体どうしたんだ?」
 課長に尋ねられた井上は苦笑しながら答えた。
「恋煩いのようです」
「ナニ?」
 『鬼』の異名を持つ原口課長が、これ以上無理だというくらい、目を見開いた。
「相手が誰だかは知りませんが、多分そうです」
「あ・・ありえん・・・・」
 原口が見やると、垣内は赤くのぼせたような顔でため息をついていた。
「私も信じられなかったんですが、最近の垣内先輩は見てて面白いですよ。一人でぐるぐるしてますから」
「おい、垣内」
 原口に呼ばれた垣内は立ち上がろうとして、その場に崩れた。
「垣内っ!?」
「垣内先輩っ!?」
 慌てて駆け寄った井上は、垣内を抱き起こした。
「すごい熱だ・・・」
「知恵熱か?」
 原口は呟いた。
真っ赤な顔でうんうん唸る垣内は、井上によって病院に連れて行かれた。

『やめて・・垣内さん・・・』
 目に涙を浮かべて抗う望を押し倒し、震える口唇を奪う。
『ん・・っ・・』
 触れた口唇は、今までキスした誰よりも甘美でひんやりした感触だった。
『お願い・・イヤっ・・』
 Tシャツを捲り上げても望の胸に豊かな乳房はない。それなのに垣内の欲望は萎えることはなかった。
『ねぇ・・早く・・・』
 望のおねだりにふと気づくと、望の上に乗っているのは自分ではなく、別の男だった。
 その瞬間垣内の心に芽生えたのは激しい嫉妬の感情だった。
「やめろぉっ!」
 叫んで飛び起きた垣内の目に、怯えたように顔を引き攣らせたナースが映った。
「あ・・・あれ・・?」
 急激に起き上がったことで眩暈を起こした垣内は、再びベッドに沈んだ。