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『夢だったのか・・・・』
 ガンガン痛む頭で、垣内はそう思った。
「全く、何の夢見て叫んでんですか・・・」
 呆れたような声が頭上から降ってくる。目を開けると、井上が大きなため息をついていた。
「過労だろうと言うことで、今夜一晩入院すれば大丈夫のようです。それから課長からの伝言ですが、明日退院したらもう一日だけ休暇をやるから、完璧な体調に戻して明後日から出て来いとのことです」
「鬼・・だな・・・全く・・・了解した。世話かけたな、井上。すまなかった」
「そう思うなら早く良くなって復帰してくださいね。私的には、過労というより、恋煩いの末の知恵熱だと思うんですけどね」
 余計な一言を残して、井上は仕事に戻っていった。

「恋煩いか・・・そうかもな・・」
 思えば、最近はあの金髪の青年のことばかり気になっている。夢とは言え、他人のモノなのだと思っただけで、言いようのない嫉妬を感じたのだから、これはもう彼に恋しているのだと考えた方が正しいのかもしれない。
 思いがけず今日と明日時間ができた。垣内はこれからどうするかを考えてみようと思った。




「ん? ダレだろ」
 携帯に表示されている番号はメモリーに登録されていない知らないものだった。ずっと鳴り続けているのでワン切りじゃない。
「はい」
 多分間違い電話だろうと思いながら出ると、受話器の向こうで相手が息を飲むのがわかった。
「ダレ?」
『・・・俺だ・・垣内だ。覚えてるか?』
「―――っ!」
 覚えてるなんてモノじゃない。忘れたいのに忘れられない、この世で一番憎いオトコだった。
「何の用?」
 つい声にもトゲが混ざる。
『逢いたいんだ・・・』
「は?」
 思いがけないことを言われて、望は素で驚いた。
『この間はすまなかった。発熱の所為でヘンになってたとはいえ、君にはヒドイことを・・・』
「はぁ・・・」
『そのお詫びと言っちゃなんだが、メシでもご馳走させてくれないか。君の都合のいい日で・・』
「えっ? いや・・あの・・・」
 ますます思いがけない方向に話が進んで行く。望はどう返事をすればいいのか、途惑ってしまった。

「すまない。待ったか?」
 結局断りきれずに押し切られるように、一緒に食事をする約束をさせられたものの、それが実現したのは一月以上経ってからだった。
 望の都合のいい時に、などと言ってたくせに、多忙な垣内の都合がなかなかつかなかったのだ。
「別に・・・30分くらい待ったうちに入らないし・・・」
 望のイヤミに垣内は平身低頭謝った。
「悪い。ホントにすまなかった」
「もう済んだことだからイイってば。それより早いトコ何か食わせてくれよ」
「あ、あぁ、そうだった。何が食いたい? 今日は俺の奢りだ。好きなもの言ってくれ」
「じゃ、美味いラーメン」
 望の希望に垣内は目をまん丸にした。
「ラ・・・ラーメン?」
「そ、ラーメン。できれば塩ラーメンのうまい店ね」
 思いがけない希望にすっかり拍子抜けした垣内は、口をポカンと開けたまま頷いた。