「フラレたら俺が嫁に貰ってやるって言っただろ」
耳元でからかうように囁いてやると、翼はパッと朱を刷いたように頬を染めた。
「忍って、ホントはイジワルなんだ・・・」
拗ねて頬を膨らませても可愛いだけなのに、翼は「うー・・・」と唸った。
「好きなコほどイジワルしたくなるって言うだろ?」
膨ませている頬を両手で摘んで横に引っ張ってやると、翼はイヤイヤするように首を振った。
「もー、やめてよー」
翼の目に涙が浮かんだ時、今度は乱暴にドアがノックされて、入ってきたのは顔を強張らせた内藤会長だった。
「貴様、翼に何してるんだ!?」
窓ガラスもビリビリ震えるような大声で怒鳴った内藤会長は、俺を思い切り突き飛ばすと翼を自分の胸に抱え込んだ。
「翼は俺のモノだから、手を出したりしたらタダじゃおかねぇからな! 覚えとけよ。ガキ!」
突き飛ばされた時に背中を壁にしたたかに打ちつけた俺は、しばらく息ができなかった。
「大丈夫か?! 君」
遅れて飛び込んできた櫻田寮長は、背中を丸めて苦しんでいる俺を抱き起こすと、優しく背中をさすってくれた。ヒュッと喉が鳴ってようやく息ができた俺は、激しく咳き込んだ。
「こんな小さなコに何て乱暴するんだ、修司! 入学式の前にケガでもさせたら親御さんに申し開きができないだろ!」
櫻田寮長に叱り飛ばされた内藤会長は、バツが悪そうに頭を掻いた。
「悪かった・・・その・・・頭に血が上って・・」
翼を抱き締めたままボソボソと、俺に謝罪の言葉を言った。
「単なる仔猫のじゃれあいだって言った僕の言葉を信用しなかったんだな?」
櫻田寮長が睨むと内藤会長はシュンとなった。
「だってよ・・」
「だってもあさってもないだろう! ケガがなかったからよかったようなものの」
櫻田寮長に一喝されて、内藤会長は首をすくめた。
「あの・・・翼は内藤会長が好きでここまで追いかけて来たんです。俺は翼の味方をするけど、手を出したりしませんから安心してください」
ようやく息が落ち着いた俺がそう言うと、内藤会長はポカンと口を開けて絶句してしまった。翼はギューギュー抱き締められたまま、声も出せないくらい喜びに打ち震えているようだった。
「ふむ・・めでたく両想いになった二人には、この騒動のバツとして、説明会で実地モデルをやってもらうことにしようか」
「なんだと!?」
櫻田寮長の命令に内藤会長は目を剥いたけど、櫻田寮長の無言の一睨みで悔しそうに口唇を噛んだ。
「ちょっと考えてみろよ、修司。入学式前に翼くんがお前のモノだってアピールできるいい機会じゃないか。お前のモノに手を出そうなんてフトドキなことを考える輩を一瞬で排除できるんだぞ」
櫻田寮長の言葉に、内藤会長はちょっと考えてから渋々頷いた。
「ホントは君にモデルを務めてもらおうと思ってさっきは依頼に来たんだよ。まさか二人でじゃれあってるとは知らなかったから、少し驚いたけどね。でも、こんな目に合わされた上にモデルも、ってのは酷だろうから、このバカップルにやってもらうことにしようね」
桜田寮長は僕の頭を撫でながらそう言ったけど、意味はよくわからなかった。
「翼・・俺のことが好きで追いかけてきたってのは本当なのか?」
内藤会長は真剣な顔で翼に訊いた。翼は耳まで真っ赤になってコクンと頷いた。
「ここに入るために塾にも通って、死ぬかと思うくらい勉強した・・・だって、修ちゃんの傍にいたかったんだもん・・・」
その言葉を聞いた内藤会長は、俺や櫻田寮長が見てる前で翼を抱き締めて口唇を重ねた。
「うわっ!?」
思わず俺は叫んでしまったけど、熱くくちづけを交わす二人には耳に入らなかったようだ。
「・・やっ・・しゅ・・ちゃ・・ん・・」
息が苦しいのか、翼は首を振って逃れようとしていたけど、内藤会長はしっかりと翼の後頭部を大きな手で掴んで離さなかった。
くちづけというよりは、接吻って言った方がぴったりかもしれない。内藤会長の舌が翼の口内に侵入して強引なくらいに絡めたり吸い上げたり、縦横無尽に動き回って、ぴちゃぴちゃ水音を立てていた。
どんどんエスカレートしていくディープなキスに、俺は見ちゃいけないと思うのに、目を逸らすこともできずに凝視してしまった。