「修司っ! いい加減にしろっ!」
たまりかねた櫻田寮長が内藤会長の肩を掴んで引き離した。
「ナニすんだよ! 邪魔するな、臣」
内藤会長はいいところを邪魔されて怒っていたけど、櫻田会長が真っ赤になっている僕の方に向かって顎をしゃくって見せると、ハッと我に返って頭を掻いた。
「仔猫には刺激が強すぎるとは思わなかったのか? 呆れてモノが言えないな」
「すまん・・つい嬉しくて・・・」
内藤会長は大きな身体を縮込めて言い訳をしていた。
「ねぇ、説明会のモデルってどんなことしたらいいと思う? 制服とか体育のジャージを着てポーズをとるのかな?」
『翼がカワイイことを言うから悪いんだ』とか、『こんな顔見せられたら理性も吹っ飛ぶ』とか、バツが悪そうにいつまでもブツブツ言い訳をつぶやいていた内藤会長が、時間まで説明会の打ち合わせをするからと、櫻田寮長に引き摺られるように部屋を出て行くと、翼は俺に訊いてきた。だけど、俺だって知らないのに答えようがなかった。
5階の和室は一体どれくらいの広さがあるのか、160人の新入寮生全員と寮の自治会メンバーだけでなく、野次馬の2年生や青雲寮から何人かの3年生が来ているらしいけど、まだまだ余裕があった。
「あ、始まるみたいだよ」
翼が内緒話をするみたいにコソッと言った。見ると、すました顔の櫻田寮長を先頭に、ちょっと緊張した面持ちの内藤会長達が前に用意されたテーブルについた。
「お待たせしました。ただいまから入寮に当たっての説明会を行います。僕が寮長の2年、櫻田臣です」
凛としたよく通る声は少し低めで、なんだかアナウンサーみたいで聞いていて心地よい感じだ。クセのない黒髪は少し前髪が長めだけど、切れ長でちょっときつい感じがする目を隠したいのかなと思った。
説明会は入学手続きのときに貰っていた寮内での決まりごとの冊子を読み上げて、細かい説明を加えていくって感じで、小学生じゃないんだから、今更こんなことしなくてもと思ったけど、顔合わせの意味もあるのかもしれない。
「・・以上で寮規則の説明は終わりますが、何か質問はありますか?」
特に質問もないのか、みんなが無言だったので、そのまま解散になるのかなと思った。
「質問がなければ、本題に入ります」
本題? じゃあ、今までのは何だったんだろう? 櫻田寮長の言葉に、みんな驚いてざわざわと騒がしくなった。
「静かに!」
そんなに大きな声じゃなかったのに、櫻田寮長の鶴の一声で、またシーンと静かになった。
「これから説明することは、本来ならば余計なお世話なことです。簡単に言えば男同士でするセックスについてですから」
一瞬、櫻田寮長が何を言ったのか理解できなかった。多分みんなも同じだったのかもしれない。でも、正しく理解した途端、シーンと静まり返っていた部屋が蜂の巣をつついたような大騒ぎになった。
「では、モデルとして吉行翼くん、前に来てください」
櫻田寮長に呼ばれたけど、翼は怯えてしまって立てなかった。俺の手をギュッと握り締めて、カタカタ震えていた。
「吉行くん、聞こえませんでしたか?」
櫻田寮長は再び翼を呼んだ。みんながこっちを見て何か言ってる。仕方なしに俺は翼を立たせて、一緒に前に出た。
「このような山奥に隔離された、年頃でヤリたい盛りの男ばかりの学校なので、手近なところで性欲処理をしたくなるのは仕方ないことだと思います。また、恋愛関係になるカップルも出てくることもあります。しかし、やり方を知らないと流血沙汰になりますので、このような説明会を設けさせてもらってます」
ストイックな見てくれを裏切るようなセリフが櫻田寮長の口から飛び出してくるので、俺の方が恥ずかしくなって赤面してしまった。
「ただ、オナニーで間に合うなら、男同士での性行為を推奨するものではありませんので、必要ないと思われたら退室していただいて結構です」
その言葉を聞いて、何人かが立ち上がって部屋を出て行った。残ったヤツも全員がホモって訳じゃないだろうけど、好奇心で説明を聞くことにしたみたいだ。